毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

「キャメラを止めるな!」© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION
2022.7.15
この1本:「キャメラを止めるな!」 B級にエスプリ利かせ
リメークにはたいてい文句を付けたくなるものだ。元がいいからリメークするわけで、それ以上になるのが難しいのは当然。日本で大ヒットした「カメラを止めるな!」のフランスリメーク版の本作、ミシェル・アザナビシウス監督が巧妙な手さばきで素材を調理し直して、新たな味わい。まずまずの成功例と言っていいのでは。
物語は日本版とほぼ同じ。前半は、ゾンビ映画を撮影中にゾンビが現れて大混乱になる、出来は悪いがワンカットのゾンビ映画。後半はその映画の舞台裏。日本版は監督も役者も無名、前半のゾンビ映画は画質も含めていかにも素人くさい。仕掛けを知らない観客がほとんどで、後半の展開に本当に驚いて2度見したくなるような作りだった。ミステリーなら叙述トリック。
しかしリメーク版は、オチがバレている。アザナビシウス監督は独自の工夫を加えた。ロマン・デュリスやベレニス・ベジョら有名俳優を起用したのは、最初から観客に仕掛けを予感させるため。製作費をたっぷりかけているから、前半のできの悪い映像もよくできている。
観客はドンデン返しよりも、それをどう見せてくれるかを期待しながら折り返すことになる。二流監督のレミーがむちゃな仕事を受けるという後半の展開も日本版を踏襲。しかし日本人プロデューサーの要求で日本版のリメークを作るという設定のひねりで、映画の構えが一回り大きくなった。
良くできている脚本を、日本版以上の作り込みと安心の演技で映像化。衝撃度では「カメ止め」に遠く及ばないが、フランス版はきちんとまとまった良質のコメディーだ。
日本版を超えたかというと、そこは難しい。見たことのないものに驚くのは映画の原初的な楽しみ。工芸品の精密さとは次元が別なのだ。1時間52分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)
ここに注目
米アカデミー賞監督が「カメ止め」をリメークする。それだけでワクワクする気持ちを抑えられなかったが、その期待に見事に応えてくれた。冒頭30分間に漂う「B級」感は原作顔負け。物語はオリジナルにほぼ忠実に展開するが、フランスらしい笑いや皮肉が利いている。オチを知っているのに、新鮮な気持ちで見ることができた。
竹原芳子演じる日本人プロデューサーのムチャブリによってフランス人らが混乱していく様子など、文化の違いから生まれる笑いも感じられるはずだ。日仏版をぜひ見比べてほしい。(倉)
技あり
前半はショッピングモールの雰囲気もある競馬場の跡地が撮影現場。ジョナタン・リケブール撮影監督は、太陽が当たる所も暗い場所も照明に気を使わず、広角レンズの手持ちカメラを振り回し、ゾンビを追い回す。後半も同じ場所、撮影開始直前の「役名も日本語」という日本人プロデューサーの要求に、主演俳優が「降りる」と騒ぐ。手前にレミーと主演俳優、すぐ後ろに集まったスタッフ。広いガラス越しの外光が主光源で、天井が低く大きなライトは使えず、雰囲気をつかむ照明で乗り切る。この手の喜劇はフランス人の好みに合う。(渡)