この1本:国境の夜想曲 戦禍を生きる声なき声
ジャンフランコ・ロージ監督が3年以上をかけて、イラクやシリア、レバノン、クルド人居住地域など中東で撮影したドキュメンタリー。20世紀に国境が引き直され、現在も紛争が続く地域だ。ロージ監督は紛争そのものを映すことなく、説明も加えず、そこにある人間の営みを淡々と記録する。しかしその映像の連なりから、豊かで深い声が聞こえてくるのである。 廃虚を歩き回り拷問で殺された息子の死を嘆く母親、草原で歩哨に立つ女性兵士、精神科病棟で紛争と混乱の歴史が題材の演劇を稽古(けいこ)する患者たち。川で釣りをし、広野で狩りをする少年。施設に集められた子供たちがイスラム過激派組織(ISIS)による弾圧への恐怖を語り、凄...