チャートの裏側:心の奥に分け入る作品
映画の実験というより、映画の果敢な冒険と呼んでみたい。「百花」だ。認知症を患う母と息子の話だが、このような題材なら、普通はある程度想像ができる作品になる。それが、そうはならない。人の記憶、人の心の内奥に分け入る。その映像が多くを占めるからである。 現実に見えた画面が、いつの間にか、認知症の母が思い描く映像のように提示される。これに驚きはない。それが時に、息子が抱く過去の映像と重なり合うから目を見張る。両者の切れ目がよくわからない。現実の進行画面と、2人の記憶、心の内奥の描写がつながっている。 まったく不思議な作品だ。母の日記から始まる場面の連なりでは、過去の映像の中に非現実的な世界が混ざる...