業界改革へ一歩
馬小屋のセットを検分に来た溝口健二監督、「馬の小便の臭いがしませんね」。その一言で撮影は中止。リアリズム追求で有名だったが「コンテがうまくいかんからや」とスタッフは陰でぼやいた。衣笠貞之助監督は、夜間撮影が大好き。昼間はブラブラして夕方になってようやくカメラを回し始める。撮影は連日深夜に及んだ。 古い映画人から直接聞いた逸話だ。こんな迷惑が懐かしそうに語られたのは、監督の人柄とか時間が浄化したからというだけではない。撮影現場での労働に、きちんと対価が支払われていたからだ。 1950年代、映画はほとんどが映画会社の撮影所で作られ、スタッフは社員だったし労働組合も力があった。撮影が定時を超過す...

勝田友巳
2023.4.12