新海誠作品を支える神話的構造――「ほしのこえ」から「すずめの戸締まり」まで(後編):よくばり映画鑑賞術
前編から続く *編集部注・物語の結末まで明かしています。 キャンベルの「鯨の胎内」 神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、主人公が異界へと越境する際に通る空間を「鯨の胎内」と名づけている。なぜ「鯨」なのかと思われるかもしれないが、これはあくまで比喩的なもので、必ずしも鯨でなくともよい。たとえば「天気の子」では、帆高が雲の上の世界を訪れた際に、雲のなかに巨大な魚の姿を見ている【図3】。 【図3】「天気の子」新海誠監督、2019年(DVD、東宝、2020年) その姿は魚のようでもあり、龍のようでもある。「君の名は。」では彗星が龍のように描かれており、瀧がビジョンを見る際には水に...

伊藤弘了
2022.11.30