特選掘り出し!:「春原さんのうた」 笑顔が際立たせる喪失
沙知(荒木知佳)は大切なパートナーを失ったことで、仕事を変え、住む部屋も移って新しい生活を始める。映画は沙知の淡々とした日常を積み重ねていくが、その人への思慕はなかなかぬぐえない。叔父や叔母、友人らが寄り添い手を差し伸べようとする。 残酷な映画である。喪失を抱える沙知の日常を淡々と映し、周囲の気遣い、思いやりが喪失の深さを浮き彫りにする。沙知の素直さややさしさがピュアであるほど、行き場のない悲しみが浸透していく。杉田協士監督は計算され尽くした演出で沙知を追い詰める。だから、心に響く映画になった。 沙知の部屋は玄関のドアも窓も開いていて風が抜け、街を歩けば陽(ひ)の光が沙知を照らす。どら焼き...