2021.12.23

    執筆陣が選ぶ 今年の映画 この3本

    毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

    (丸数字は邦画、白抜き数字は洋画)

    年末に執筆陣が、邦画・洋画それぞれ「この3本」を選びました。監督の視点やテーマ性、脚本、新型コロナウイルス禍での取り組みなど多彩な評が集まりました。

    鈴木隆(鈴)

    ①あのこは貴族
    ②茜色に焼かれる
    ③海辺の彼女たち
    ❶ノマドランド
    ❷17歳の瞳に映る世界
    ❸ジャネット

    女性監督の視点の大切さを実感。①は新しい女性の生き方に挑んだ意欲作。❶でノマドの生きざまに共感と驚異と羨望(せんぼう)。コロナで遠くなったアメリカの土地と人を思う。

    梅津文

    ①街の上で
    ②すばらしき世界
    ③孤狼の血LEVEL2
    ❶ノマドランド
    ❷最後の決闘裁判
    ❸プロミシング・ヤング・ウーマン

    ここではないどこか、今ではないいつか、自分ではない誰かの視座に2時間触れられる映画は、旅行、特に海外旅行がしづらい中、多くの喜びと発見をもたらした。私も心を動かされた。

    高橋諭治(諭)

    ①あのこは貴族
    ②すばらしき世界
    ③きまじめ楽隊のぼんやり戦争
    ❶プロミシング・ヤング・ウーマン
    ❷春江水暖
    ❸Swallow/スワロウ

    洋邦1位の作り手(エメラルド・フェネル、岨手由貴子)ら、女性監督の活躍が目についた1年だった。ジェンダーという問題や女性の生き方の選択を描いた作品が数多く公開された。

    大高宏雄

    ①空白
    ②孤狼の血LEVEL2
    ③キャラクター
    ❶ONODA一万夜を越えて
    ❷最後の決闘裁判
    ❸アナザーラウンド

    ③を挙げる人は他にいないと思うので一言。物語の衝撃的な落とし穴に入りこんだ小栗旬。外の強烈な風圧と内なる冷静さの間から、名状しがたい安らぎの風がふく。悲劇が始まる。

    細谷美香(細)

    ①ドライブ・マイ・カー
    ②由宇子の天秤
    ③サマーフィルムにのって
    ❶ノマドランド
    ❷逃げた女
    ❸ファーザー

    米国の風景が忘れがたい❶。舞台の映画化の最適解❸。虚実が重なる至福の瞬間を味わえる①。正義を考えさせる②。SF、青春、映画愛が融合した③。対話にひかれた6本を選んだ。

    勝田友巳(勝)

    ①全員切腹
    ②モルエラニの霧の中
    ③梅切らぬバカ
    ❶ペトルーニャに祝福を
    ❷DAU.ナターシャ
    ❸ジャッリカットゥ 牛の怒り

    こんな映画もあったと忘れないように。コロナ禍で、作り手たちの奮闘が目立った1年だった。邦画は脱製作委員会作品。洋画は、中心から遠く離れた場所にある3作。

    山口久美子(久)

    ①花束みたいな恋をした
    ②すばらしき世界
    ③劇場版きのう何食べた?
    ❶SNS少女たちの10日間
    ❷GUNDA/グンダ
    ❸サマー・オブ・ソウル

    外国映画はすべてドキュメンタリー。映像が持つ強さを思い知る。特に❷は人間の言語が一言も存在しない。逆に日本映画は脚本で選んでしまう。原作への愛があるかも気にかかる。

    倉田陶子(倉)

    ①すばらしき世界
    ②ヤクザと家族The Family
    ③孤狼の血LEVEL2
    ❶最後の決闘裁判
    ❷ファーザー
    ❸ノマドランド

    反社会的存在との向き合い方が邦画3本を見比べるとよく分かり、弱い立場の人々への冷ややかな視線につながっていると考えさせられた。❶は抑圧に負けなかった女性の強さが印象的。

    渡辺浩(渡)

    ①水俣曼荼羅
    ②護られなかった者たちへ
    ③キネマの神様
    ❶スウィート・シング
    ❷ファーザー
    ❸春江水暖

    ③で撮影開始のカットが良かった。監督の「ヨーイハイ」で、ミッチェルNCカメラのスイッチを入れ、新人助監督がカチンコを打つ。山田洋次監督は良い間合いで打ち、気分がよかった。

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