この1本:「モロッコ、彼女たちの朝」 パン作り、響き合う心
臨月間近の体で一人町をさまようサミア(ニスリン・エラディ)が、女手一つでパン屋を営み娘を育てるアブラ(ルブナ・アザバル)の前に現れる。主要な登場人物はワケありの女性たち。しかも舞台はモロッコで、男性中心の風潮が色濃く残る。片隅の女性2人が心を通わせるさまを、乾いた古い町並みの中に描く。 2人の造形がたくましい。サミアは飛び込みで職探しをするものの、大きなおなかで家もなくては、どこも門前払い。それでも情けを乞うことも家に戻ることもなく、ついに野宿を覚悟する。アブラは一人でパン屋を切り盛りし、出入りの男からの控えめな誘いはピシャリとはねつけ、娘のワルダを慈しむ。店の向かいに横たわるサミアを見かね...