この1本:「椿の庭」 人と自然、しなやかに
写真家、上田義彦の初監督作品である。四季の庭の移り変わりや木造の家のたたずまいから、人や自然への丹精な思いが満ちている。消えゆくものへの慈しみと感謝の思いが連なり、死生観が交錯する。何げない日々の営みをまばゆく照らし、人の生を淡々とあぶり出していく。 海を見下ろす高台にある古い日本家屋。絹子(富司純子)は亡くなった長女の娘の渚(シム・ウンギョン)と暮らしている。夫の四十九日法要が終わり、次女陶子(鈴木京香)は東京で一緒に暮らそうと勧めるが、絹子は家から離れるつもりはない。ある日、税理士から相続税の問題で家を手放すことを打診される。 カメラは家の中と庭からほとんど出ない。死んだ金魚を土に埋め...