この1本:「葬送のカーネーション」 情感にじむ素朴な物語
棺おけを引きずった老人と少女がとぼとぼ荒野を歩く。地平線が空を真横に分割するような何もない風景に、大小二つの人影を捉えたロングショット。その絵柄だけで神秘的な美しさである。トルコ発の寓話(ぐうわ)的ロードムービーだ。 ムサ(デミル・パルスジャン)は、孫娘のハリメ(シャム・セリフ・ゼイダン)を連れ、ヒッチハイクで国境を目指していた。運んでいるひつぎには、妻の亡きがらが納められている。ムサは戦争で国を追われた難民で、妻の遺言通りに故郷に埋葬するため、旅をしているのだ。 という設定は、映画の中でぼんやりとしか明かされない。ハリメの両親のこととか、そもそも舞台はどこなのかすら、はっきりは分からない...