多層的な生きる苦しみ、ツタのように絡まる母娘の人生を描いた小説「八月の母」
「8月は、母の匂いがする。」 そんなふうにこの小説は始まります。はじめての子供を産んで、胸に抱いた直後、赤子の甘い香りの奥にうっすらと感じた血の気配を、主人公は「母の匂い」と認識する。 ――このファーストシーンを、カメラはどう撮るのか。 最初からめちゃくちゃな難題を突き付けてくる原作です。 生まれた土地でもがき生きる、母娘の負の連鎖 1977年の8月。越智美智子は海辺の街でたったひとり、赤子を産みました。名前は、エリカ。堕胎するはずだった命を、窓の外に咲く花の美しさがつなぎ留めた――。その花の名をつけた女の子です。「私がエリカを幸せにしてみせるし、エリカが私を幸せにしてくれる」と...
金子亜規子
2022.11.14