ひとしねま

2023.1.20

チャートの裏側:闇の深部に迫る対峙を

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

今年の興行は、テレビドラマの実写映画化作品、いわゆるドラマ映画が鍵を握る。そう思えるほど、ドラマ映画の数が多い。その年明け最初の作品が、「映画 イチケイのカラス」である。スタート3日間の興行収入は2億4000万円。悪くはないが、ヒットとは呼べない。

原作はコミックだ。裁判官と弁護士を主人公に、海難事故と企業の闇をめぐる話を並行して描く。コミカルな調子で進むように見えて、作品の芯にはズシリと重いテーマがある。国と地域社会の問題を、重ね合わせたような中身を持つからだ。興味深い試みではあると思う。

では、このような体裁が面白いのかどうか。そこが興行の一つの鍵になるわけだが、正直に言えば疑問が残った。エンタメ作品におけるワクワク感が今いちだった。ワクワク感とは、話の展開の妙と、それを支えるダイナミックな映像が基本線だ。本作は、そこが物足りない。

軽い調子の裁判官と弁護士が、いかに国や社会の問題と向き合うのか。複雑極まる権力、社会構造は、安手の正義感などでは歯が立たない。裁く側と裁かれる側の間に、もっと強烈な対峙(たいじ)関係がほしかった。そのためには、闇の深部に迫る話の膨らみが必要だったと思う。映画版なら、そこまでしないとワクワク感=面白さに行き着かない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)