「強くなりたい」　そんな願いを胸に、激動の1980年代をプロレスラーとして生き抜いた少女たちの物語「極悪女王」。2001年生まれの俗に言うZ世代の私から見た彼女たちの生き様は、なんとも破天荒でめちゃくちゃで涙が出てしまうくらいまばゆかった。

 

コンプラは一体どこぞへ？

女子プロレスが一世を風靡（ふうび）した800年代、プロレスが大好きだった少女がひたすらに夢を追い、「国民の敵」とまで言われるようになったヒール（悪役）・ダンプ松本として成り上がるまでを描いた物語。最近では、ドラマ「不適切にもほどがある！」など、私たちから見れば〝なんでもあり〟だった80年代を描いた作品で、Z世代が逆カルチャーショックを受ける現象が起きている。この「極悪女王」も例に漏れず、略して〝逆カル〟のオンパレード。セクハラにパワハラに暴力、暴力、暴力……コンプラは一体どこぞへ？！と終始突っ込まずにはいられない80年代のエンタメ業界が描かれている。

昭和のテレビ

まず女子プロレスとテレビ業界がこんなにズブズブだったことすらこの作品で初めて知った。プロレスラーがアイドルのように歌い踊る?!　私が現在住んでいるイギリスの友達に見せたところゲラゲラ笑いながらも、どこか癖になったのかその後ずっとクラッシュ・ギャルズのまねして横揺れしていた。おとなしくて礼儀正しい日本人に、こんなに野蛮な一面があったとは！と驚く一方で、まだまだ女性が弱い立場である日本で強くなろうともがく彼女たちの姿に励まされたという声も。

メキシコに遠征したジャガー横田が劇中「向こうには（プロレスで）本物のフォーク使うやつも、空手技急所に入れてくるやつもいない」というせりふがある。まさに〝なんでもあり〟だった80年代の日本のエンタメは海外から見ても異色過ぎる。

海外に来て感じることは、日本のカルチャーの強さ。食、アニメ、音楽……どれをとっても小さな島国から来たとは思えない広がりようだ。日本カルチャーの発展途上を支えたのは、間違えなく昭和のテレビであることを私はこの作品を見て確信した。Netflixで世界配信されている「極悪女王」。正直、80年代というそんな遠くない過去の日本のエンタメ業界がこんなにミソジニーであふれていたということを見せるのは日本人として恥ずかしいと思ったけれど、日本で生まれた作品でしか見せられないこのハチャメチャぶりに大いに狂わされてほしいとも思う。

 

弱さも強さも全てひっくるめて輝く彼女たち

昭和のカルチャーっていうのは、はちゃめちゃでスリリングで面白い。けど、またその時代に戻ってほしいかと聞かれたら、絶対NO。暴力NO！セクハラNO！コンプラ第一！のZ世代なので、〝ぬるい〟と言われようと自分の心を守る。当時はこのような考え方が無かったから、女性たちは自分を守るために強くなるしかなかった。「強くならなきゃ」と何度も口にする彼女たち。でも、どれだけ身体的に強くなっても、弱さを抱えたまま、弱いまま強くあろうとする。その姿が、彼女たちも等身大の女の子だと感じさせる。

昔も今も、みんな弱いから強くなりたいと願い、弱いまま強くあろうとする。暴力的なものが苦手で食わず嫌いしていたプロレスだけれど、私はこの作品を通してプロレスの魅力にハマってしまった。弱さも強さも全てひっくるめて輝く彼女たちに、何年たってもスターでいてほしいと願う。あの時の激動を、輝きを現代によみがえらせた「極悪女王」。あの時代を懐かしく思うあなたも、私のように逆に新鮮に思うあなたも、彼女たちの熱量にきっと心揺さぶられるだろう。