「プラットフォーム2」

「プラットフォーム2」© 2023 Netflix,Inc

2024.10.21

極限の状態で人々が見せる狂気や選択、本能を描くスリラー「プラットフォーム2」

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ヨダセア

ヨダセア

極限状態に身を置かれた人々を観察するような映画には、普段人間が努力して隠している醜悪な側面や本能、逆に困難な状況においても善の心や希望を保つ強さなどを浮き彫りにし、〝自分がこの状況ならどうするだろう〟と考えさせる作品が多い。
 
「ソウ」シリーズ(2004年〜)のようなデスゲーム映画から「トゥモロー・ワールド」(06年)、「コンクリート・ユートピア」(23年)といった空想未来映画まで、一定のファンを楽しませ続けるこの類の作品群において、最新作といえるのがNetflixにて10月4日(金)から配信されている「プラットフォーム2」だ。
 

階層社会でルールなく無法地帯だった前作「プラットフォーム」

「プラットフォーム2」は日本でも21年に公開されて話題となったスペイン発のスリラー映画「プラットフォーム」(19年)の続編。シリーズの舞台は巨大な建物で、〝中心に穴がいた部屋〟が何百階も連なっている。その穴には食事を載せた巨大な台座が上からりて来て、上の階の住人から順に食事に手をつけられるため、下に行けば行くほど選択権はなくなっていくという仕組みだ。部屋の上下は1月に1度入れ替わるため、住人たちはさまざまな立場を経験することになる。
 
1作目「プラットフォーム」ではそのオリジナリティあふれる設定が話題となり、上流階級にいるほど自由を享受し、貧民には自由も最低限の食事もないという構図や、部屋の入れ替わりでその立場が入れ替わった際の人間の行動の変化などによって階層社会を風刺するような物語が印象に残った。生命の根源たる〝食事〟をテーマとすることで、登場人物たちの苦楽が誰からも理解されやすい見事な世界観だ。なお、建物のシステムに〝管理者〟はいるものの、彼らは食事を提供するだけ。1作目での建物は、上から下まで無法地帯といえる状態だった。
 
それに対して、「プラットフォーム2」では1作目と状況が少し異なっている。建物全体にルールが定められているのだ。それは、自分がリクエストした食べ物1品だけを食べ、それ以外は手をつけないこと。コミュニケーションの取れる上下の階層と取引して、食べる物を交換することは可能だ。そしてルールを破れば、他の階の住人が罰を与えにやってくる。ルールさえ守れば皆が食事を享受することができ、一定の秩序が保たれるというわけだ。
 
しかし、これは管理者によるものではなく、住人たちの民意による〝半〟強制的なルール。やはりルールを破り、下の階層にいる誰かの分け前に手をつけてしまう人間が現れる。結果、自分の分け前を失った人間は我慢し怒りを抱えるか、さらに下の階層の分け前を奪うしかなくなってしまう。少し秩序が形成されているように見えても、その秩序はたった人のエゴによってすべて崩壊してしまうくらい脆(もろ)い。そして、そのエゴの影響を受けるのは結局、選択権のない〝下層の人々〟だ。
 

現実の世界に置き換えたときに見えるのは〝搾取〟と〝支配〟

現実の世界に置き換えてもこれは変わらない。大企業が取引先の中小企業への出資を出し渋れば、中小企業は従業員への給与を出し渋ったり、リストラしたりする方向に追いやられる。困窮した労働者層が生きていくための最終手段として、さらに立場や力の弱い人々を相手に犯罪を働くこともあろう。前作では無法地帯ならではの絶望感・恐怖を感じたが、今作では一定の秩序が作られたからこそ、それが崩れた際の〝搾取のしわ寄せ〟が強調されたように思える。
 
〝搾取〟だけでなく〝支配〟に関しても同様だ。今作では住民内の規律が描かれるため、その規律を取り仕切る人々も存在する。「管理者」によって支配されている住民たちの中で、さらに支配者と被支配者が誕生する。
 
我々の世界においてもいえるように、大きな社会の中に包含される小さな社会が生まれ、それを繰り返して〝支配のしわ寄せ〟も下層の人々に行き着くのだ。今作はその構図を通して、人間の持つ本能=支配欲や被支配欲を描いた。強さを持つ者の中には自分より弱い者を支配したがる者がいて、弱い者の中には自分より強い何かに従い、身を任せる安楽を享受したがる者がいる。
 
根拠のない権威を振りかざす強者と、それにすがり盲信する弱者。そんな姿を冷静に見つめ、危機感や怒りを覚え、平等や公平のために戦える者がどれだけいるだろうか。フィクションの建物での出来事を観客として俯瞰(ふかん)的に眺めているだけならともかく、今作を現実の世界のメタファーとして解釈したときにどれだけの人間が〝清い選択〟をできているかと考えると、言葉に詰まってしまう。狂気的な世界観ながらもどこか人ごとではない感覚をもたらすという、1作目から続く作風を「プラットフォーム2」は貫いた。
 
混沌(こんとん)と革命を描く「プラットフォーム」、脆い秩序の崩壊を描く「プラットフォーム2」。窮地に追いやられた人々の狂気や攻撃性、理性と本能を見せつけ、エゴスティックに生きがちな大衆に警鐘を鳴らすのがこのシリーズの特徴だ。これらをただの空想SF作品として味わうのではなく、内容を現実社会に照らし合わせることで、我々は映画の外に飛び出した思考にまで連れ出してもらえる。
 
「プラットフォーム2」はNetflixにて独占配信中。前作「プラットフォーム」も同じく配信中であるため、ぜひセットで味わっていただきたい。

ライター
ヨダセア

ヨダセア

フリーライター。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(X・Instagram)やYouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」においても映画や海外ドラマに関する情報・考察・レビューを発信している。

この記事の写真を見る

  • 「プラットフォーム2」
さらに写真を見る(合計1枚)