この1本:「憐れみの3章」 不条理の毒にしびれる
前作「哀れなるものたち」で世界の映画賞を総なめにしたヨルゴス・ランティモス監督がさらなる毒を込めて送り出した、3章仕立てのオムニバス奇譚(きたん)集である。 三つの物語は全く独立しているが、ウィレム・デフォー、エマ・ストーン、ジェシー・プレモンスら同じ俳優陣が違う役で登場する。これが三つとも、奇妙きてれつ。 第1章「R.M.F.の死」。ロバート(プレモンス)は勤め先の上司レイモンド(デフォー)の言うなり。起床時間、朝食のメニュー、読む本から妻との性交渉まで、彼の立てた予定に従うように求められ、毎日報告する。ところがある日、車で事故を起こして相手を入院させるという指示を受け、初めて拒絶する。...