時代の目:天国にちがいない 混迷の世界、軽やかに旅を
「D.I.」のエリア・スレイマン監督の10年ぶりの秀作だ。セリフはほぼない。映像は豊かすぎるほど能弁でシュール感もたっぷり。イマジネーションを絶え間なく刺激する。なのに軽やかで品性があり、政治的なメッセージはずっしりと重く込められている。 スレイマン監督は、ナザレから新作映画の企画を売り込むため旅に出る。パリでは街を走る戦車、炊き出しに並ぶ大勢の人を見る。地下鉄では威圧的な男にすごまれる。ニューヨークに着くと誰もが銃を持ち、セントラルパークでは天使の姿の少女を警官たちがなぜか追いかける。誰もが暴力にさらされ、混迷した抑圧的な社会に生きている、と言いたげだ。 全編を貫くのはシニカルなユーモア...