この1本:「EO イーオー」 ロバの瞳に映る人間界
1頭のロバが人間社会をさまよって、その無垢(むく)な目に映るものを描く。人間中心主義を排して人間を描いた傑作「バルタザールどこへ行く」(ロベール・ブレッソン監督、1966年)の現代版の趣である。ポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督はロバに再び、ヨーロッパを放浪させた。80歳を超える巨匠の、若々しい挑戦だ。 サーカスで曲芸を見せていたロバのEO。動物愛護団体の抗議と興行主の破産でサーカスが解散し、生々流転が始まる。牧場で馬と共に過ごし、森の中をさまよい、闇馬肉業者のトラックに乗せられてサラミにされそうになる。 ブレッソン監督は、ロバに聖書にも登場する名前を付け、禁欲的なリアリズムに徹して...