この1本:「ファーザー」 混濁する記憶を痛切に
アンソニー・ホプキンスのアカデミー賞主演男優賞も納得。彼の演技だけでも見る価値はあるが、もちろんそれだけではない。認知症を映画言語で体験させるという、知的で大胆な試みである。 ロンドンの瀟洒(しょうしゃ)なアパートに1人暮らしのアンソニー(ホプキンス)は、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が恋人とパリに行くと聞いて落胆する。アンは新しいヘルパーに任せると言うのだが、偏屈なアンソニーは前任者とケンカして追い出したばかりだ。新しいヘルパーのローラ(イモージェン・プーツ)がやってくると、愛想良く振る舞ったかと思えば不機嫌になったりと、アンは気が気でない。 アンソニーは知的でおしゃべり、少々気難し...