林檎とポラロイド
記憶喪失を引き起こす奇病がまん延する世界。ある日、バスで目が覚めた男は突然記憶を失っていて、治療のための人生学習=新しい自分プログラム=に参加する。毎日送られてくるカセットテープの指示通り自転車に乗る、仮装パーティーで友人を作るなどのミッションをこなす。 男が指示通りの行動を淡々と重ねていく姿は、時に滑稽(こっけい)で愛嬌(あいきょう)すら漂う。記憶を失ってしまったショックよりも、プログラムを生真面目にこなすことを優先する男を見て、ふと、電車の中で同じようにスマホに見入る人たちの映像が浮かんだ。男には番号がついているだけで、名前で呼ばれることはない。感情の浮き沈みもほとんど感じられず、ただ平...