「フィンガーネイルズ」より 画像提供:Apple TV+

「フィンガーネイルズ」より 画像提供:Apple TV+

2023.12.04

ケイト・ブランシェットがプロデュース。相思相愛度が判定できる風変わりな世界が舞台のラブストーリー「フィンガーネイルズ」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

村山章

村山章

世界最高の俳優のひとりであるケイト・ブランシェットは、2020年のベネチア国際映画祭で才能あふれる新進監督を発見した。静謐(せいひつ)だが風変わりな長編デビュー作「林檎とポラロイド」を出品していたギリシャ出身のクリストス・ニクである。

「林檎とポラロイド」を見たブランシェットは早速ニクに連絡を取り「一緒に朝食を取りましょう」とアプローチ。まだ無名の存在だったニクは「スパムメールかと思った」そうだが、実際にブランシェットとの会食は実現し、2時間以上好きな映画について語り合った。そんな出会いから生まれたニク監督初の英語圏作品「フィンガーネイルズ」が現在アップルTV+で配信されている。
 

どことなくアナログ感が漂う世界観

「フィンガーネイルズ」は、言葉に頼ることなく繊細につづられたラブストーリー。しかし奇妙で突拍子もないアイデアが前提としてある。いにしえより多くの人が「運命の相手」や「生涯の伴侶」を求めているが、劇中で描かれているのは「愛情が本物かを科学的に確かめる方法が発明された世界」なのだ。

確認する方法は簡単。カップルの爪を1枚はがして専用の検査機に入れれば、たちまち相思相愛度がパーセントで表されるのである。ただし100%(相思相愛)、50%(片思い)、0%(愛情なし)の三つしか表示されないのだが……。

ニク監督はこのアイデアをマッチングアプリから思いついたというが、劇中では時代は明示されず、携帯電話やインターネットは登場しない。愛情を判定する検査機もレトロな電子レンジのようなデザインであり、作品全体にアナログ感が漂っている。

主演は「ウーマン・トーキング 私たちの選択」のジェシー・バックリーと、「サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜」のリズ・アーメッドという旬の2人。
 
バックリー演じるアンナは、相思相愛の判定が出ている恋人と同棲(どうせい)中で、検査を確立した「愛情研究所」に就職、カップルが愛情を深めるセミナーのアシスタントになる。しかし、理想の相手がいるはずなのに、アーメッドふんする職場の同僚で、セミナーでインストラクターを務めるアミールにもひかれていく……。
 

ニク監督の次回作とケイト・ブランシェットのプロデューサーとしての活躍にも注目

もちろん冷静に考えれば、愛情を100%確かめる科学なんてあるわけがないし、生爪をはがして検査する機械なんてバカげている。しかし100%確かめるすべがないからこそ、人は他人や自分を疑い、安心や確証を求め、マッチングアプリや占いや、それよりももっとバカげたことに頼ってしまうこともあるだろう。思わず笑ってしまうようなトンチキ感はあっても、恋愛関係の戯画化と思えばクレバーで説得力のある設定ではないか。

実際、前提となる世界観はヘンテコでも、恋人同士のすれ違い、パートナーがいても埋められない孤独感、抑えられない恋心といったさまざまな感情が静かに繊細に描かれており、むしろ誰もが身近に感じられる等身大のドラマに仕上がっている。
 
ニク監督の前作「林檎とポラロイド」も、大切な人を失った喪失感を「記憶喪失になる感染症が広がった世界」というSF的設定で描いており、ニク監督には間違いなく、とっぴなアイデアと人間の心の隙間(すきま)を結びつける才能がある。

ちなみにケイト・ブランシェットは本作には出演していない。ニク監督との朝食会で、次回作に出演したいと直談判したものの、監督はすでに本作の準備中でブランシェットに適した役はなかった。
 
しかしブランシェットは動じることなく「だったらその映画は私がプロデュースしましょう」と申し出たという。ブランシェットは自ら立ち上げた製作プロダクション、ダーティ・フィルムズも運営している。今後はプロデューサーとしての活躍にも注目したほうが良さそうだ。
 
「フィンガーネイルズ」はApple TV+で配信中。

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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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