林檎とポラロイド  ©︎2020 Boo Productions and Lava Films

林檎とポラロイド ©︎2020 Boo Productions and Lava Films

2022.3.10

林檎とポラロイド

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

記憶喪失を引き起こす奇病がまん延する世界。ある日、バスで目が覚めた男は突然記憶を失っていて、治療のための人生学習=新しい自分プログラム=に参加する。毎日送られてくるカセットテープの指示通り自転車に乗る、仮装パーティーで友人を作るなどのミッションをこなす。

男が指示通りの行動を淡々と重ねていく姿は、時に滑稽(こっけい)で愛嬌(あいきょう)すら漂う。記憶を失ってしまったショックよりも、プログラムを生真面目にこなすことを優先する男を見て、ふと、電車の中で同じようにスマホに見入る人たちの映像が浮かんだ。男には番号がついているだけで、名前で呼ばれることはない。感情の浮き沈みもほとんど感じられず、ただ平然と生きている。現代人への暗喩的表現と受け取れる。しかし、クリストス・ニク監督は終盤に記憶を取り戻させる。男はつらく悲しい喪失に向き合い、自らの力で乗り越えようとする。生気を取り戻した男を、静かに祝福しているのである。1時間30分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)

ここに注目

どこか非現実的な世界が舞台になっていて、美術や音楽などすべてに監督のこだわりが行き届いているが、窮屈さはない。ポラロイドやカセットテープといった小道具と治療プログラムにアナログな感触があり、奇妙な居心地の良さとユーモアが漂うところに監督の魅力を感じた。(細)

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