この1本:「DAU. ナターシャ」 〝ソ連〟再現、異様な迫力
映画は映っているものだけで評価すべきだという考えには賛成するけれど、本作ばかりはスクリーンの外に目が行ってしまう。物語を追っても何だかよく分からないのに、異様な迫力と緊迫感。映画のために周到に作られた「現実」が、スクリーンの虚構性を制圧しているのだ。 1952年、ナターシャ(ナターリヤ・ベレジナヤ)はソビエト連邦某所の「物理技術研究所」の食堂で働いている。研究所を訪れたフランス人科学者ビジェと性的関係を持ったことでKGBに拷問される。物語はこれだけ。 ナターシャと年下の同僚オーリャとの取っ組み合いのケンカや、研究所の奇妙な人体実験などが点描されるものの、設定や人物の紹介や説明はしない。撮影...