時代の目:「ヴェラは海の夢を見る」 抑圧への怒り、静かに強く
今週閉幕した東京国際映画祭の東京グランプリ受賞作。コソボの女性監督、カルトリナ・クラスニチの長編第1作だ。 手話通訳をしているヴェラの、裁判官の夫が自殺する。田舎に持て余していた家が、高速道路の建設予定地になって売れそうだと喜んだばかり。ぼうぜんとするヴェラの元に田舎の隣人が訪ねてきて「家を譲られる約束をした」と明かす。賭け事好きの夫が、生前借金のカタに家を差し出したらしい。 家庭も仕事も不自由なく暮らしていたヴェラが、突然の不幸を契機に不条理な状況に放り込まれる。家を奪われまいと闘おうとすると、あらゆる方向から抑圧と暴力が押し寄せる。夫の裏切り、コソボ紛争の過去や男性支配社会の壁、裏社会...