この1本:「ある人質 生還までの398日」 極限での尊厳と暴力性
「イスラム過激派に捕らわれる」という状況設定、ここ10年ほど映画の中にずいぶんたくさん見た。ヒーローが陥る絶体絶命の危機、家族を襲う理不尽な出来事。だがそれは、物語に緊張をもたらす記号的な仕掛けだった。人質の実際の状態と心理に本作ほど迫ったのは初めてではないか。2013年、シリアでIS(イスラム国)の人質となったデンマーク人写真家が1年後に解放されるまでを描く。 ダニエル・リュー(エスベン・スメド)はごく普通の青年だ。体操選手の夢をけがで諦めて報道写真家に憧れ、シリアに旅立つ。気づくと危険地帯にいて、抵抗のしようもなく自由を奪われ閉じ込められ、「CIAだな」と拷問される。米国人ジェームズ・フ...