「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

2021.3.04

チャートの裏側:アイドル映画の流れ結実

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

順位に大きな変動はないが、2週目の「ライアー×ライアー」を忘れてもらっては困る。人気コミックを基にして若い男女の恋愛を描き、若者層を観客の視野に入れる、いわゆるキラキラ映画(実写)の流れをくむ。ラブコメ的な要素も強く、今回の恋愛の設定は身近な者同士だ。

本作はアイドル映画の系譜にも連なる。もともと、キラキラ映画はアイドル映画と近い。それが今回、その側面が強く出たと思う。もちろん、今は主演者の国民的な人気を背景にした往年のアイドル映画の時代ではない。にもかかわらず、本作はそこが魅力の源泉になった。

主役を松村北斗と森七菜が演じる。2人のそれぞれ違った表情の変化が素晴らしい。数々の見せ場を、アップの多用で描きこむ。俳優に徹底して焦点を合わせる。2人はそれに堂々と応える。俳優の限られた時期の得難い瞬間が生まれる。優れたアイドル映画の定型である。

笑えるシーンも結構あったのに、館内の周りの女子たち(2人連れが多い)から笑い声は全く聞こえず、意外なほど真剣に画面と向かい合っていた。その様子から、映画にぐんぐん引き込まれていくのがわかるのだ。正直、もう少し客層が広がってほしいとは思ったが、観客たちが人生のかけがえのない時間を過ごせたのならうれしい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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