毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「レイブンズ」 © Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films
2025.3.28
「レイブンズ」 写真家・深瀬昌久の人生と異形の愛
父(古舘寛治)が営む写真館を継ぐことを拒み、北海道から上京した深瀬(浅野忠信)。自由でパワフルな洋子(瀧内公美)と運命的に出会った深瀬は、彼女を被写体にした作品を生み出すが、やがてふたりの思いはすれ違っていく。
1970年代に脚光を浴びた写真家、深瀬昌久の人生を映画化。監督・脚本は英国出身の元ミュージシャンで「イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語」のマーク・ギルが手がけた。団地の風景やファッション、歌謡曲からロックまで幅広い音楽が時代のムードを伝え、シャッターを切る音とともに深瀬が残した作品の数々が映し出される。ストレートな伝記映画に収まっていないのは、深瀬の分身ともいうべき存在を、人間と同じ大きさの英語を話すカラスとして表現しているから。この試みによって、芸術家が抱える闇にいやおうなく引きずり込まれる。狂気、情熱、情けなさ、純粋さ、深瀬からはその全てが感じられ、こんな浅野が見たかった!という喜びを与えてくれる作品でもある。1時間56分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)
ここに注目
喜怒哀楽を思うがままに発散し、感情のコントロールが利かない深瀬を浅野が自由奔放に表現し、誰よりも深瀬の仕事や生き方を理解した洋子を瀧内が強弱のある芝居で表現した。写真を撮ることでしか育めなかった異形の愛の形を、時に激しく、時に鋭利なナイフのようにシャープに演じ切った。(鈴)