「ベイビーガール」

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2025.3.28

時代の目:「ベイビーガール」 〝抑圧からの解放〟超えて挑発

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

20世紀後半のハリウッドではセクシュアルな見せ場を強調したスリラーが次々と作られ、世界的なセンセーションを巻き起こした。例えば「ナインハーフ」「危険な情事」「氷の微笑」。本作は元女優のオランダ人監督ハリナ・ラインが、それらに触発されて撮り上げた官能ドラマである。

ニューヨークの新興企業でCEOを務めるロミー(ニコール・キッドマン)は、舞台演出家の夫(アントニオ・バンデラス)や2人の娘と理想的な人生を送っている。そんなロミーがインターンとして働く青年サミュエル(ハリス・ディキンソン)に誘惑され、背徳的なパワーゲームに溺れていく。

富も名声も手に入れた主人公が、はるか年下の部下に翻弄(ほんろう)され、危ういモラルの一線を越えていく物語。前述した旧作との大きな違いは、全編を男性サイドではなくロミーの視点で描いていること。しかもライン監督は理性と欲望のはざまで揺れるロミーの葛藤を、エロスとサスペンスをふんだんに織り交ぜて映像化し、女性主人公の〝抑圧からの解放〟というお題目をうたうにとどまらない挑発的な一作に仕上げた。ベネチア国際映画祭で女優賞を受賞したキッドマンの恐れを知らない演技も映画を牽引(けんいん)する。1時間54分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

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