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「春画恋愛物語」より©TVING All Right Reserved
2025.3.16
美しく刺激的な婿探し物語。19禁の韓国ロマンス時代劇「春画恋愛物語」
ちょっぴり刺激的な19禁の韓国ロマンス時代劇「春画恋愛物語」(全10話)が、U-NEXTで配信中だ。街で女性に人気の官能小説「春画恋愛物語」のモデルではないかとウワサされるほど自由奔放な王女ファリ(コ・アラ)が、初恋に破れて自ら婿探しを始める物語だ。
思いのままに行動する自由奔放な王女
時代劇のヒロインは堅実で身持ちが堅いタイプが多いなか、ファリは心ひかれる相手に対して思いのままに行動する。兄の初体験(未遂)をのぞき見したり(!)、性にまつわる話を人前で堂々とするなど、性をタブーと考えず。そんなしきたりに縛られることのない彼女に興味を持ち、婿候補に立候補したのは超プレーボーイとうわさの絶えない商売人チェ・ファン(チャン・リュル)だった。ファリは、自ら名乗り出たファンの真意を測りかねながらも、彼に引かれていく。
さらに、真面目な左議政の息子イ・ジャンウォン(SF9のカン・チャニ)、ファリの絵の師匠キム・ミンホン(ペ・ユンギュ)が、彼女への思いに気づいていく。前代未聞の婿選びが進むなか、宮中のスキャンダルを描く「春画恋愛物語」が世間を騒がせ、宮中でも深刻な問題となりファリたちの運命を大きく揺るがす。謎の作者が登場するのは、「ゴシップガール」や「ブリジャートン家」を彷彿(ほうふつ)とさせる要素も。
なぜ本作が19禁なのかといえば、美しく刺激がありつつも過激すぎない性描写があり、物語の鍵となる春画も登場するから。そもそも19禁とは、韓国の放送通信審議委員会によって定められた基準のひとつ。過激な暴力、性描写、露出シーンなど内容によって年齢の視聴制限が設けられている。多くの作品は、深夜帯の放送や特定の配信プラットフォームで視聴可能で、日本でもリメークされた「わかっていても」や、世界でヒットした「イカゲーム」シリーズも19禁である。
ぶっ飛びヒロイン演じるコ・アラにヒロインの風格
本作は、刺激のある恋愛を描くだけでなく、立場の弱い女性の悩みも浮かび上がらせた。ファリの叔母は妊娠中にもかかわらず夫が浮気。ある若い女性はファリの異母兄に辱められ命を絶とうとする。ファリの兄で世子(王の息子)と世子嬪(世子の正妻)はすれ違い続け、夫婦仲は冷め切っていた。世子嬪は、子どもを産む義務によるプレッシャーに追い詰められ、世子が宮中の外で女性と会うようになり限界を迎える。
世子と世子嬪は、世継ぎのために〝務め〟を果たさなければならず、大勢の側近が寝室のすぐそばで控えているのをあえて映したシーンは、2人のストレスをこれでもかとわかりやすく表現していた。世子は外の世界に安寧を求めて、世子嬪は自由もなく抱え込むしかないのとは対照的。だからこそ、世子嬪のために立ち上がる、ファリたち女性たちの物語が際立った。
ファリを演じたコ・アラは、「ドドソソララソ」(2020年)から約5年ぶりとなるドラマ出演だったが、変わらぬ天真爛漫(らんまん)な笑顔がまさにヒロインの風格。ジャンウォンの妹役のハン・スンヨン(KARA)も、可愛らしさと芯のあるジウォンを好演していた。また、ファリを取り巻く男性陣を演じたチャン・リュル、カン・チャニ、ペ・ユンギュも魅力的だったのはもちろん、ファリの初恋の相手役のソンジュンは、わずかな出演ながらファリが恋した相手にふさわしい存在感だった。
本作は10話と短くファリの行動など少々ストーリー運びが強引だったところもあったが、物語を引き締めて重厚感をもたらしていたのは、パク・ウォンサン(「その年、私たちは」)、チェ・グァンイル(「悪霊狩猟団:カウンターズ」)オム・ソヒョプ(「偶然見つけたハル」)といった名バイプレーヤーたちだったかもしれない。
「春画恋愛物語」はU-NEXTにて独占配信中