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2022.7.10
ディズニー商法を風刺 毒気も余裕の表れ「チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ」:オンラインの森
ディズニーの人気キャラクター、シマリスの名コンビ「チップとデール」を主人公にした新作映画がディズニープラスで配信された。と、こういう紹介の仕方は決してウソではないのだが、実像はずいぶん趣が異なる。本作は、1989年から3シーズン放送されたアニメシリーズ「チップとデールの大作戦」に出演していたチップとデールが、人気絶頂でたもとを分かち、30年後に落ちぶれた姿で再会するという、なんとも苦い設定のコメディー作品なのである。
アニメと実写 複雑に融合
監督のアキバ・シェイファーと、デールの声を演じたアンディ・サムバーグは、「サタデー・ナイト・ライブ」出身のお笑いトリオ、ザ・ロンリー・アイランドのメンバー。彼らは2016年に「俺たちポップスター」という音楽業界をさかなにしたパロディー映画を発表しており、サムバーグはかつての仲間と決別してスターになったラッパー兼シンガーを演じていた。今回の「チップとデール」とも通じる要素が多く、確執を乗り越えて友情を確かめあう王道のストーリーも彼らの十八番芸だといえる。
シェイファーが本作のお手本にしたのは、過去にチップとデールが登場した短編アニメや、前述のTVシリーズ以上に、88年の映画「ロジャー・ラビット」だったという。「ロジャー・ラビット」は、アニメのキャラクターと人間が共存する架空のハリウッドを舞台にしたミステリーコメディーで、アニメと実写をミックスさせた最新技術も話題を呼んだが、本作が試みている映像表現はさらに複雑怪奇だ。
実写とアニメを融合させるところまでは同じだが、本作では昔ながらの手描きアニメと3DCGアニメを共存させ、さらにキャラクターやシーンによって時代の異なるアニメーションのスタイルを模倣している。全編を通じて、まるでアニメ表現の見本市。だいたい主人公のひとりであるデールが自分の姿を2Dから3Dアニメに整形したことになっており、チップは2D、デールは3Dのまま同じ画面に収まっている。子供の頃から「チップとデール」に親しんでいた人ほどこの映画の実験性に困惑するのかもしれない。
コンテンツ消費社会も標的に
そしてさらに本作が踏み込んでいるのが、ますます隆盛を極めているキャラクタービジネスへの風刺で、人気商売のグロテスクな側面を暴くことが裏テーマだと言っていい。例えば(前述したように)デールが自らを3Dアニメに整形したのは、今風のスタイルに合わせることで芸能界での復活をもくろんでいるからであり、また、美貌を保とうと過剰な美容整形にハマっていくセレブの写し絵にもなっている。
皮肉の矛先が向くのは、チップとデールだけではない。全編にわたってどこかで見覚えのあるアニメキャラクターが登場し、膨大なキャラクターグッズと共に打ち捨てられ、忘れ去られ、もしくは掘り返されてリブートやリメークの主人公となり、再び消費サイクルが高速回転するショービジネスの最前線へと送り出されていく。果たしてその責任は、観客側も負っているのではないのか? 本作の標的は明らかにわれわれ自身でもあるのだ。
ファミリー向けギリギリ狙い
本作くらい毒気たっぷりの視点を完遂することを、よくディズニーが許したものだと感心するが、思い返せば人気商売の盛衰というテーマは「トイ・ストーリー」シリーズなどでも掘り下げられてきたし、アニメと実写をメタ的な視点で融合させた先例に「魔法にかけられて」という名作もある。業界の覇者ディズニーにとってはこれくらいの毒など意にも介さないという余裕の表れなのかもしれない。
いずれにせよ、子供向け、ファミリー向けという枠のギリギリで刺激的な勝負を仕掛けてくれる作品は大歓迎であり、アキバ・シェイファーやザ・ロンリー・アイランドの面々が主導しているのも、まさに適材適所の起用だった。正直、本作に込められた濃密な情報量のすべてを理解しているとは思えないが、程よくハッピーで程よくまがまがしくて、思いのほか間口の広いエンタメかもしれないと思っているのだが、みなさんは戸惑われるだろうか、それとも楽しんでいただけるだろうか。
ディズニープラスで独占配信中。