ひとしねま

2022.12.09

チャートの裏側:時を経て余韻が切実に

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

邦画アニメーションの大ヒット作には、いろいろな生まれ方がある。「THE FIRST SLAM DUNK」は珍しいパターンだ。1990年代にコミック、アニメとして人気を博し、今回の劇場版は原作連載終了から何と26年もたつ。長い間隔があっても、勝算ありとの製作意図である。

スタート2日間では、興行収入が約13億円だった。見事な出足だと言える。狙いどおりだろう。一つの傾向が見えた。初日の土曜日が、2日目の日曜日の数字を上回ったことだ。かつてのファンが期待と不安を抱えながらも、率先して初日の劇場に足を運んだことが大きいとみる。

期待と不安の入り交じりこそ、本作興行の一つの注目点だと思う。声優が一新された。どのような筋書きかも、公開当日まで明かされなかった。若き日に熱狂し、今に至るも、その思いが強烈に突き刺さっているファンはやきもきした。劇場版と、どう向き合えばいいのか。

高校のバスケットボール全国大会を話の軸にした。試合の白熱描写が見せ場だが、1人の選手の子ども時代が同時的に描かれる構成がいい。海沿いの沖縄の地で、兄が弟にバスケを教える。このシーンが、なかなか切ない。あとから効いてくる。ここが、本作との向き合い方の一つではないか。ファン心理さえ超えた切実な余韻が残る。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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