「1122 いいふうふ」Ⓒ渡辺ペコ/講談社 Ⓒmurmur Co., Ltd.

「1122 いいふうふ」Ⓒ渡辺ペコ/講談社 Ⓒmurmur Co., Ltd.

2024.6.28

「1122 いいふうふ」が描く「公認不倫」「女性専用風俗」の向こうにあるもの 結婚10年目35歳ライターの共感度

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山田あゆみ

山田あゆみ

Amazonプライムビデオで配信中の「1122 いいふうふ」は、エンタメとして不倫劇のスリルや背徳感を楽しむというより、夫婦関係の本質を問うドラマだ。「公認不倫」や「女性専用風俗」というインパクトのある言葉が目を引くが、現代を生きる30代の2組の夫婦が互いの関係を模索していく姿を繊細に描いている。赤裸々かつコミカルに暴露される夫婦の性事情に大いに興味をそそられる一方で、誰かと共に生きることについて考えさせられる内容だ。

原作は累計販売部数146万部を突破した渡辺ペコの同名漫画。監督は「愛がなんだ」(2019年)、「からかい上手の高木さん」(24年)などの今泉力哉。脚本は今泉監督の妻、今泉かおりで、初の夫婦合作だ。主役の相原一子(いちこ)と二也(おとや)の夫婦を、高畑充希と岡田将生が演じている。


不倫相手とはするくせに……

一子と二也は結婚7年目。なんでも話せる夫婦だが、「婚外恋愛制」をとっている。互いの恋愛と性生活には干渉しないという約束で、二也は第3木曜日の夜に不倫相手とすごしているのだ。きっかけは、二也の夜の誘いを一子が「家以外で何とかしてくれないかな」とむげに断ったこと。一子は自分で言い出したことなので引っ込みがつかず、平気なふりをしていた。

夫婦関係が悪化しているわけではなく、二也は一子のことを家族として大切にし、一緒に料理したり出かけたりするなど、仲の良さは変わらない。だが、結婚記念日の夜に一子のセックスの誘いを二也が拒否したことで、一子のモヤモヤはふくらんでいく。「不倫相手とはセックスするのに自分とはしないのか」と。

一子は友人に聞いた女性用風俗コースがあるエステサロンを思い切って訪れる。セラピストの礼(吉野北人)を紹介され、女心をくすぐる優しく甘い対応にひとときの癒やしを得た市子は、肉体関係を持たずとも満足していた。しかし、二也が不倫相手との恋愛を家庭に持ち込んだことに耐えきれず、礼と一線を越えてしまう。そのころ二也が、不倫相手に別れ話を切り出したことで、彼女から剣山で股間を刺されていたとは知らずに……。


欠点あっても悪者に描かない

私自身、現在35歳、結婚10年目で共働き。一子の境遇をとても身近に感じる。愛情と性欲がイコールにならないことも理解できるし、礼から甘い笑顔を向けられて「すっごくいい……」とうっとりする一子の気持ちもよく分かる。他の異性に感じるときめきは、この場合推し活に近いのかもしれないが。結婚生活が長年続くと、一緒にいることや気持ちが通じていることが当然のように感じて、相手に対して甘えてしまうこともある。公認不倫を招いた一子の発言は、その慢心から出たのだろう。

一方で、二也の不倫相手の美月(西野七瀬)も事情を抱えている。美月は、発達に遅れがみられる息子のひろ(千葉惣二朗)を育てる専業主婦で、二也とは生け花教室で出会った。夫の志朗(高良健吾)は「育児は美月の担当だから」と言って、子育てには一切関わらない。義理の母親はひろを治療しようと過干渉で、その対応にも嫌気がさしていたが、志朗は放っておけばいいとだけ言う。心の距離を埋められない夫への憤りと、日々の子育ての疲れや孤独感を二也とすごすことで解消していた。罪悪感を持ちながらどうしても手放したくない関係だったのだ。そんな中、二也から別れ話を切り出され、ショックを抱えながらも、自身の夫婦関係を立て直すべく、志朗と向き合うようになっていくのだが……。

夫婦関係で起こりうる問題をここでも描いている。美月が不倫を続ける理由も分からなくはない。そしてこのドラマでは、誰かを極端に悪者の立場にしていない。二也は美月と肉体関係を持った翌朝、一子に朝食を作る。事実だけ見ると嫌悪感を抱きそうだが、二也の笑顔はそんな感情を抱かせなかった。公認不倫だからということもあるが、二也の一子への優しさや関心が見えたからだ。また、子育てに無関心な志朗は一見ひどい夫のようだが、どう子どもと接していいのか分からず、無力感から美月に押し付けるような形になっていた。美月への愛情はあるがそれをうまく伝えられていない上、自分の殻に閉じこもっていたのだ。


夫婦の形は千差万別

人の数、夫婦の数だけ事情があり、それぞれが悩みに向き合う姿を真摯(しんし)に描いているところが、このドラマの魅力だ。関係は良好だがセックスレスの一子と二也は、性的欲求のすれ違いを埋めるために選んだ公認不倫で心のすれ違いに気づく。困難な子育ての中で、互いを理解できなくなった美月と志朗は、目を背けていた自身の問題に改めて向きあうようになる。

また夫婦間だけでなく、その家族との関係性にも目を向けている。姉(菊池亜希子)と母親(宮崎美子)と仲の良い二也に比べて、一子は母親(風吹ジュン)とうまくいっていない。間に二也が入って、一子の母親の世話をしたり、連絡を取り次いだりしていた。二也の親戚の集まりに参加した一子と二也は、叔父から老後のためにも子供を産むようせかされる。二也は「2人で幸せだから」とそれを制し、二也の母親も「家なんて終わる人は終わる。亡くなった人のことより、今生きている人の人生のほうが大切」と言う。

個人差はあるだろうが、結婚には互いの親戚や家族との付き合いがつきものという、リアルな部分も描かれている。経済的な負担や人生設計から、子どもを持たない夫婦が増えている昨今、家を継ぐという概念がなくなってきている時代の流れも反映している。

ちなみに私の夫の父は5人兄弟で、全員地元の沖縄にいる。次世代(夫の代)で家を継ぐのは誰が良いか検討していたようだが、結局後継ぎという形はとらないことにしたという。伝統を重んじるタイプの家系だったので夫自身驚いていたが、時代の流れもあり、それぞれの生き方を尊重したのかもしれない。

関係を立て直そうとする一子と二也が、悩みながらどんな答えを見つけるのか、ぜひ最後まで見届けてほしい。

ドラマ「1122 いいふうふ」は全7話、Amazonプライムで独占配信中。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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