「なら国際映画祭」で上映する「緑の牢獄」宣伝のため、映画館のスタッフに協力を呼びかける山本あいさん(左)=高瀬浩平撮影

「なら国際映画祭」で上映する「緑の牢獄」宣伝のため、映画館のスタッフに協力を呼びかける山本あいさん(左)=高瀬浩平撮影

2022.9.15

ミッションは「映画館満席」 中高生7人宣伝に奮闘 「緑の牢獄」19日上映

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高瀬浩平

高瀬浩平

奈良市で9月17~24日に開催される「なら国際映画祭2022」には、中高生たちが配給や宣伝を手がける「ユースシネマインターン」というプログラムがある。今年参加した7人は、作品の魅力を伝えて、19日に開かれる上映会の動員につなげようと試行錯誤を続けている。プロのアドバイスを受けながら学ぶ様子を追った。
 


 

西表島に暮らす台湾出身者のドキュメンタリー

「中高生がシネマインターンに参加しています。満席が目標です」。NPO法人・京田辺シュタイナー学校に通う山本あいさん(18)=京都府精華町=は8日、京都市内の映画館数カ所を回り、チラシやポスターを置いてもらえるようお願いした。最初のうちは「こういうのは苦手です」と戸惑っていたが、スタッフたちの親切な応対で、徐々に作品の内容も説明できるようになった。
 
宣伝しているのは、沖縄・西表島の炭鉱史や、住人の高齢女性を描いた「緑の牢獄(ろうごく)」(2021年、日本・台湾・フランス)。台湾出身の黄インイク監督の作品で、10歳の時に親に連れられて台湾から西表島に移り住み、18年に92歳で亡くなった橋間良子さんの最晩年を記録したドキュメンタリーだ。美しい自然の中で営まれる日常生活を描きつつ、橋間さんが自らの人生を回想し、台湾出身者たちの炭鉱での過酷な労働が明らかにされていく。
 
19日に「緑の牢獄」の上映と、黄監督を招いて、映画祭のエグゼクティブディレクターを務める河瀬直美監督とのトークイベントを予定している。集客に励むインターン生たちは「若い世代に見てほしい」と考えている。
 

10代、20代に届けるために素直な感性で

山本さんがよく見る映画はアニメだという。娯楽色が薄いこの作品の魅力を10代や20代に伝えるのは簡単ではない。
 
どうすれば伝わるか。チラシのデザインも自分たちで決めた。写真やキャッチコピーについて、仲間たちと議論した。「手や背中が印象的」という意見があり、表面は橋間さんの後ろ姿のカットにした。裏面には、遠くを見つめる橋間さんの穏やかな表情の写真を大きくした。近くには「なんて悲しい顔をするの、なんて嬉(うれ)しい顔をするの」という、河瀬監督の評を配置した。「牢獄」という言葉の暗いイメージを和らげるため、田植えや赤い花など美しい自然の写真もちりばめた。
 
大人の視点では、今年が沖縄の本土復帰50年に当たること、近年の国際情勢、台湾と沖縄の境界で翻弄(ほんろう)された社会性を強調するだろう。だが、中高生が選んだキャッチコピーは「彼女は、この島で生きた」だった。人物そのものに焦点を当てた表現だ。山本さんは「台湾にも帰れたはずなのに、なんで島に残ったのだろうと感じました。あまり考えずに自然に出た言葉です」と自分たちの感性を大切にした。
 

映画界の担い手育てる取り組み

フランスのカンヌ国際映画祭で河瀬監督は1997年、「萌の朱雀」でカメラドール(新人監督賞)を受賞。07年には「殯の森」でグランプリ(審査員特別大賞)に輝いた。カンヌで若手を育てる理念に共感し、10年に始まった「なら国際映画祭」でも将来の担い手を育てるプログラムを用意。中学生が映画を製作するワークショップ、10代の子どもたちが映画を評価する「ユース審査員」など、若い世代が活躍できる取り組みを続けている。
 
今回のシネマインターンでは、大阪、京都、奈良の3府県に住む14~18歳の7人が8月から活動。山本さんは12年制の学校の最終学年で、4年前から審査員などとして映画祭に関わり、今回初めてインターンに挑戦した。舞台俳優になるのが夢で、学校でも演劇に打ち込む。大学受験を控え、支える側に関心を持ったという。仕事に向き合う姿勢も学び「来場者数の目標もきっちり決めて、一つ一つ順序立てて進めていくのが大切だと分かった」と語る。
 
当日の会場は286席あり、同級生にも売り込むが、チケットの買い方が壁になっていることにも気づいた。生徒たちはインターネットでのチケット購入に必要なクレジットカードを持っておらず、電話予約も「知らない人に電話をかけるのが怖い」と心理的なハードルがあるという。動画配信に慣れ親しんでいることもあり、山本さんは「映画館に足を運んでもらうということが難しい」と感じる。


 

上映までの大変さにびっくり

それでも、プロから刺激を受ける。京都市内の映画館では、スタッフから実践的なアドバイスをもらった。SNS(ネット交流サービス)の活用や、いくつか違うデザインのチラシを作って関心を引くなどの助言もあった。
 
映画館「アップリンク京都」(京都市中京区)では、スタッフがチラシを見て「できばえがいいので、中高生が作ったことが分からないですね」と、手書きのポップ(広告)を添えることを提案した。山本さんはその場で「7人の中高生が集まり、ポスター・チラシ・予告をいちから作って宣伝・配給をしています」とメッセージを書いた。
 
インターンを通じて何を学び取ったのか。「支える側のスタッフとして、上映日までもっていく大変さにびっくりしています。学校で演劇をやった時も最終日に分かることがありました」と語った。当日まで学びは続く。
 
若い世代が主役の「なら国際映画祭 for Youth」は17~19日に奈良市内で開催。「緑の牢獄」は19日午前10時、東大寺金鐘ホールで。前売り1000円(当日1300円)。国内外の新進気鋭の作品を集めた本祭「なら国際映画祭」は19~24日に開かれる。
 
問い合わせやチケットはなら国際映画祭公式サイトへ。

ライター
高瀬浩平

高瀬浩平

たかせ・こうへい 毎日新聞大阪学芸部デスク。1979年生まれ。2002年毎日新聞入社。神戸、奈良などの支局や大阪社会部などを経て、現在は大阪学芸部で映画や芸能などを担当。

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