3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。
2023.1.19
映画館で映画を見るという文化・娯楽・エンターテインメントの要素をさらに高めるコンセッションとは
「私が秋田の劇場で働き始めた頃は、売店では缶ジュースと袋菓子しか置いていませんでした」
全国のTOHOシネマズのコンセッション(売店)の商品開発を担当する飲食商品開発室長・筒井忠さんは懐かしそうに振り返った。
シネコンの「三種の神器」
日本のコンセッションの歴史は1993年、神奈川県・海老名にアメリカ型のシネマコンプレックス、ワーナー・マイカル・シネマズ(現:イオンシネマ)が出店した事から始まる。
やがて2000年前後を境に、日本の映画興行形態はシネコンにかじを切り、やがて主流となった。
そこで、ポップコーン、コーラ、ホットドッグのアメリカンテイストな「三種の神器」をどの劇場でも出すようになった。
そのころ「味へのこだわりのハードルが一気に上がっていった」と言う。
そのために、映画館そのものをエンターテインメントとして楽しんでもらうための付加価値の高い商品開発を行っていくのが筒井さんら開発担当の仕事となった。
3割バッターを目指して
「これまでもこれからも映画館を楽しんでもらうためにおいしい物を開発する」のが目標。
例えば、人気商品のジンジャーエールにナタデココ、ストロベリー、マンゴーをトッピングしたドリンク「フルーツミックス ストロベリー&マンゴーwithナタデココ」はメーカーさんと何度も何度も試飲を行い、味を決め、商品開発部内のコンセンサスを得て、社長・役員が出席の提案会で決定された。
フルーツミックス ストロベリー&マンゴーwithナタデココ 写真提供=TOHOシネマズ
商品化される割合を聞くと、「野球では無いですが、3割バッターを目指していかないと心が折れます」と笑いながら答えてくれた姿に苦労が垣間見える。
3割を目指すために「取引先などの情報だけでなく、街を歩いて何が流行っているのか、人々が何を求めているのかを常に観察している」そうだ。
TOHOシネマズならではのプレミアム感を感じてもらいたい
メインの商品ポップコーンも塩味、キャラメル味に加え、さまざまな味を楽しめるシネマイクポップコーンを大手メーカー・ジャパンフリトレー株式会社と共同で開発した。
パッケージは多様性を表すため多くの色を使った。
「ポップコーンを売るのが映画館のコンセッションの仕事」と言い切る筒井さん。
「映画館で映画を見るという文化・娯楽・エンターテインメントの要素をさらに高めるのがポップコーンとコカ・コーラの役目なのです」と自信を持って勧めてくれた。
昨年の4月から、新たなチャレンジとしてピザの販売を始めた。
ペパロニ&イタリアンソーセージは具のこぼれにくい包み込むような形状となっている。
ペパロニ&イタリアンソーセージ 写真提供=TOHOシネマズ
こぼれて服を汚しにくいという発想からだ。
それだけでなく味も、「お客様の期待を裏切らないために、何食食べたかわからないくらいです」と話してくれた。
食の仕事はとてもハードな体を持たないとだめなのである。
11月からは新商品リッチメルトチーズを投入。
「当初予想を大きく上回る売り上げだ」とホッとした表情を浮かべた。
「映画館に来るお客様は選べない。毎週公開される映画のジャンルによって全然違うお客様が来場するので、最大公約数を狙うしか無い」と言うが、「TOHOシネマズならではのプレミアム感は感じてもらいたい」とも。
コーヒーも英国のコスタコーヒーという信頼の高いブランドのものを出し「より価値を感じてもらいたい」と胸を張った。
次の一手は和テイストで映(ば)えて、楽しんでもえる物
シネコンが日本に上陸して約30年。
特に地方の方と学生の購買意欲が高いと言う。
「映画館で映画を見るというせっかくの『ハレの日』を楽しもう!」
と言う表れだと分析する。
「そんな学生さんたちがやがて大人になると、さらにポップコーンとコカ・コーラが当たり前の風景になる」と将来への手応えを感じていると言う。
「この次の一手は和テイストで映(ば)えて、楽しんでもえる物を開発したい。コンセッションでTOHOシネマズを選んでもらいたい」と筒井さんはさらにもう一歩先の方を見つめていた。
☑人気映画館飯
【ポップコーン】
写真提供=TOHOシネマズ
塩味、キャラメル味はポップコーンマシーンで出来立てを提供しているので、休日は長蛇の列ができることもしばしば。
劇場内でポップコーンを食べた海外の方が興奮している姿を見た時に「喜びを感じた」と言う。
実食してみると、味もさることながらはじけた後の豆の外皮をほとんど感じない食感には改めて感心した。