「海辺の家族たち」

「海辺の家族たち」© AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

2021.5.13

この1本:「海辺の家族たち」 変わる世界、昇る朝日

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

仏・マルセイユ近郊の海と山が美しい別荘地は、世代交代と住民流出ですっかり寂れてしまった。ここにある家に、人生のたそがれを迎えつつある3兄妹が集まった。時代に取り残されたような港町で始まった物語は、いつしか世界に開かれてゆく。

レストランを営んでいた父親が倒れ、女優のアンジェル(アリアンヌ・アスカリッド)が帰省した。長兄のアルマン(ジェラール・メイラン)と次兄ジョゼフ(ジャン・ピエール・ダルッサン)の3人は、久しぶりに顔をそろえる。意識はあるが話せない父親の病状を見守りながら、兄妹は今後を話し合うことになる。

映画の前半では、3人と古い隣人との思い出話から昔のにぎわいがよみがえり、それぞれが抱えている現在の事情が明らかになってゆく。アルマンは父親の後を継いだが、愛情を抱く故郷と父親が共に衰えることに心を痛めている。ジョゼフは若い婚約者に別れを切り出され、勤め先でも冷遇されて不満ばかり。アンジェルは幼い娘の死は父親のせいだと信じ、許すことができず、20年も帰ってこなかった。過去にとらわれた3人はたそがれた村と共に、緩やかな死への坂道を下っているようだ。海に臨む夕景は美しいが、物語は少々かび臭い。

ところが後半に差し掛かると、緩やかに転調する。演劇ファンの漁師の青年がアンジェルに熱烈に求愛して彼女を困惑させる。ジョゼフは、若い医者に心ひかれていく婚約者に、なすすべがない。そして、流れ着いた難民の子供たちが、彼らの生活に紛れ込む。新しい世代によって、村に生気が注入される。

ロベール・ゲディギャン監督は、変わりゆく世界を嘆きつつも希望を失わない。時の流れは残酷で厳しく、思うようにはならない。しかしそれでも人の営みは続き、朝日は昇るのである。1時間47分。東京・キノシネマ立川高島屋S.C.館ほか。21日からアップリンク京都ほかでも。(勝)

ここに注目

かつてはにぎやかだったが、今は寂れたマルセイユの港町が、この映画のもう一人の主人公。美しい入り江や港、高架橋、父親と子供たちが眺めるバルコニーからの景色が、セリフよりも冗舌に家族の思い出を伝えている。それが可能だったのは、監督がこの場所を知り尽くしているからこそ。過去にとらわれ、思いをぶつけ合う家族の姿に時にハラハラさせられるが、気持ちを一つにしてくれたのは難民の子供たち。ごく当たり前に幼く弱い者たちに手を差し伸べる彼らの姿に、人間の善なる面を信じようとする監督のメッセージを感じた。(細)

技あり

監督が全編を撮影しようと考えたこぢんまりとした入り江は、ピエール・ミロン撮影監督にも絶好だった。舞台の家はセザンヌの描く「サントヴィクトワール山」と同じ石灰岩の山すそにある。極端に言えば、屋外の背景は山と海しかない。山向けはベランダに立つアンジェルの背後の高架橋を、模型のような列車が走るカット。海向けは、ジョゼフと婚約者がカフェの前にいて、難民捜索中の兵士が来る場面。2人は左右に離れて立ち、白波が立つ入り江とカフェの柵の間に、兵士が現れる。丁寧に選んだ背景を生かした撮影を高く評価したい。(渡)

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