「サンコースト」より © 2024 Searchlight Pictures. All rights reserved.

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2024.4.29

監督の実体験から着想、ヤングケアラーが〝普通の青春〟へ飛び込むさまを描いた青春映画「サンコースト」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

村山章

村山章

死や介護といった繊細かつ現実的なテーマに正面から取り組んでいるのに、優しさがにじむ心地のいい青春映画「サンコースト」がディズニープラスで配信されている。俳優や脚本家として活動してきたローラ・チンの半自伝的作品だが、とても新人監督の長編デビュー作とは思えない稀有(けう)なバランス感覚で、主演のニコ・パーカーがサンダンス映画祭の審査員特別賞に輝くなど各所で称賛を得ているのも当然に思われる。
 

3人家族だが、兄を介護する妹の冒険を描いた青春映画

主人公のドリス(パーカー)は、シングルマザーの母クリスティン(ローラ・リニー)と兄マックスと3人で暮らす高校生。しかし、兄マックスは脳腫瘍を患っていて何年もほとんど意識がない。家計を支える母に代わってドリスが寝たきりのマックスを介護していたが、いよいよ兄は緩和ケアのホスピス〝サンコースト〟に入所することに。

クリスティンはホスピスに泊まり込むようになり、ドリスは自分以外に誰もいなくなった自宅を学校のイケてるグループにパーティー会場として提供する。ドリスにとって、ハメを外すのも、友だちができるのも絶えて久しかった大事件。また、ホスピス前では安楽死に反対するデモが盛り上がっており、ドリスはポール(ウディ・ハレルソン)という活動家の中年男と会話するようになる。

ドリスは、不器用で内気ではあるが、恋やプロムに興味があるどこにでもいそうなティーンエージャーだ。しかしポールはドリスにはっきりと言う。「君は普通じゃない」と。幼い頃に父を亡くし、兄が死にかけているから? それともヤングケアラーだから? ドリス自身には「普通じゃない」自覚がまるでないまま、普通の青春へと飛び込んでいく。その冒険が生き生きとつづられていくのだ。
 

監督ローラ・チンの半自伝的作品。主演のニコ・パーカーの代表作となる予感

監督のローラ・チンは、実際にシングルマザーの母親に育てられ、兄を難病で亡くしている。チン自身は実体験に着想を得ていてもあくまでもフィクションだと明言しているのだが、死が身近にありながらも悲劇に耽溺(たんでき)しない人物描写には心地よい抜けのよさとナチュラルな説得力が宿っていて、監督のしなやかな人柄が伝わってくるようだ。
 
遅咲きの高校デビューをするドリス、息子を溺愛する口の悪い母親クリスティン、愛妻を失った悲しみをデモに向けているポールは、全員なにかが欠けていて、だからこそぶつかったりわかり合えたりもする。そんな立派ではない登場人物たちに絶妙な愛嬌(あいきょう)をもたらしたニコ・パーカー、リニーとハレルソンがどの瞬間も素晴らしい。

リニーとハレルソンは映画ファンなら圧倒的な信頼を寄せる演技派中の演技派だとして、このニコ・パーカーって子は誰だっけ?と思ったら、ティム・バートン版「ダンボ」に主演していた子役であり、タンディウェ・ニュートンの娘じゃないですか! 
 
「シャンドライの恋」や「クラッシュ」、ドラマ版「ウエストワールド」で知られるニュートンは、2021年にタンディから本名のタンディウェに改称したのでタンディウェと呼ぶことにするが、現在19歳のニコ・パーカーは確かに母親の面影を思い起こさせる。しかしいつのまにか、若い頃の母親とは違う味わいのこんな名優に成長していたとは。

ニコ・パーカーは現在名作アニメ「ヒックとドラゴン」実写版の撮影中だそうで、今後どんどん出世していくのだろう。だが「サンコースト」は彼女の代表作として、いつまでも愛され続ける作品になる気がしている。
 
「サンコースト」はディズニープラスのスターで独占配信中

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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。