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2024.5.01
「愛の不時着」を超え韓国ドラマ史上最高視聴率を記録! キム・スヒョン主演のラブストーリー「涙の女王」:オンラインの森
話題のドラマ「涙の女王」が、4月28日(日)に最終回を迎えた。「愛の不時着」を超えて韓国のケーブル局tvNで史上最高視聴率を獲得し、配信中のNetflixでは非英語・テレビ部門でグローバルランキングの上位にランクインし続ける人気ぶりだ(以下、本編の内容に触れています)。
「愛の不時着」の脚本家の手腕が光る、不仲になった夫婦の物語
ソウル大法学部を首席で卒業した優秀なペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)は、就職先で、韓国一の財閥「クイーンズグループ」の令嬢と知らずにホン・ヘイン(キム・ジウォン)と恋に落ちて結婚。その3年後、夫婦仲はすっかり冷え切っていた。ヒョヌは、仕事でも家でもヘインに冷たく扱われ、彼女の家族にこき使われる日々。ヒョヌはしあわせを感じられず、つらい思いを抱え離婚を決意する。
ヘインに離婚の話を切り出そうとしたその瞬間、彼女から余命3カ月の重い病気であることを告げられる。ヒョヌは驚きつつも、ヘインと彼女の家族から解放されると思ってしまう。さらに、親友にそそのかされ、ヘインに遺言書を書き換えてもらい遺産を手に入れようと、彼女に〝愛しているふり〟をし始める。
ヒョヌの〝ふり〟の気持ちは次第に本気になり、素直じゃないヘインとの愛を取り戻しかけるが、何度も何度もすれ違う。さらに、夫婦仲を裂こうとするヘインの大学の同期ユン・ウンソン(パク・ソンフン)の存在、「クイーンズグループ」の危機、深刻になっていくヘインの症状……と2人の愛には大きな壁が立ちはだかる。
すでに結婚している2人が、再び恋に落ちていく様子がじれったく描かれ、「愛の不時着」「星から来たあなた」の脚本を務めたパク・ジウンの手腕が光る。こじれた2人の行く末が気になって次のエピソードを渇望させる展開は圧巻で、タイトルの通り、ヒョヌとヘイン、登場人物たちの数え切れないほどの涙が、涙腺を崩壊させる。
〝ヒット作請負人〟のキム・スヒョン、初の夫役に
ヒョヌ役のキム・スヒョンは、「ドリームハイ」「太陽を抱く月」「星から来たあなた」「サイコだけど大丈夫」などで知られ、「太陽を抱く月」は韓国で最高視聴率46.1%、「星から来たあなた」は33.2%と、とてつもない数字を記録。そんな〝ヒット作請負人〟のキム・スヒョンが、初の夫役に挑んだ。
ヒョヌという人物は、妻に離婚を切り出そうとした男ではあるが、憎みきれないキャラ。酔っ払いながら、「生まれながらにしてかわいい」「酔うとかわいい」と端正な顔でなければ通用しない言葉を無自覚に言うことも。そして、ヘインに対して痛いほど後悔をして反省をして、ヘインを誰よりも真っすぐに愛する。
ドラマといえば、悪役が憎らしければ憎らしいほど最高に盛り上がる。本作では、一家を狙うモ・スリ(イ・ミスク)とユン・ウンソン(パク・ソンフン)が最後まで目を離せない暴走っぷりだった。
モ・スリの金と権力に執着する姿は恐ろしいの一言に尽き、ユン・ウンソンは、颯爽(さっそう)と登場した当初は恋のライバルで良き2番手となるのかと思いきや、「ザ・グローリー~輝かしき復讐~」で演じたいじめっ子のチョン・ジェジュンに負けるとも劣らない悪人として、ヘインたちを恐怖のどん底に突き落とした。
ヒョヌとヘインを取り巻く登場人物たちもいい味を出しており、田舎に住むヒョヌの家族、クセのあるヘインの家族、心強い味方であるヒョヌの親友、信頼度が半端ないヘインの秘書、敵と味方を行ったり来たりするグレイスと、それぞれ別にドラマが成立するほど魅力的だったし、ヒョヌとヘインの家族との奇妙な共同生活は最高に笑えた。
そして、ヘインの弟スチョルのキャラも秀逸だった。財閥の〝バカ息子〟として描かれるも、妻と息子を溺愛する愛すべき人物で、本作で最も成長を遂げたキャラといっても過言ではないだろう。息子に自転車の乗り方を教えたいから、と自転車に乗る練習をする姿はグッと込み上げるものがある。ちなみに、スチョル役のクァク・ドンヨンは、「ヴィンチェンツォ」でも小物感がありつつも人間味あふれる役がどハマりしていた。
「ヴィンチェンツォ」のソン・ジュンギなどカメオ出演も豪華
カメオ出演も豪華で、「サイコだけど大丈夫」でキム・スヒョンと兄弟役だったオ・ジョンセ、「愛の不時着」の名コンビ、イム・チョルス&コ・ギュピル 、「財閥家の末息子」と同じくキム・ドヒョンと夫婦役のキム・シンロク、「星から来たあなた」に出演したホン・ジンギョン、チョ・セホ、ナム・チャンヒが名を連ね、韓ドラ好きにはたまらない世界線が描かれる。
さらに、ソン・ジュンギが、「ヴィンチェンツォ」のヴィンチェンツォ・カサノ役で登場。「性格の不一致で離婚」という私生活に絡めたセリフもなかなか強烈だった。
ラブストーリーではあるが、さまざまな要素がてんこ盛りで、韓国ドラマの魅力が凝縮された本作。各話のエピローグも、ヒョヌとヘインの過去、本編で描かれなかったできごとが明かされ、最後まで視聴者のかゆいところに手が届く内容だった。また、〝記憶〟を巡る物語で、ヘインとヒョヌのちょっとした会話が鍵になっていることもあり、見返すほどに新たな発見をすることができる作品でもある。
Netflixシリーズ「涙の女王」独占配信中