「Demon City 鬼ゴロシ」より

「Demon City 鬼ゴロシ」より

2025.2.24

生田斗真がノンストップ無双 新境地?の壮絶バイオレンスアクション 「Demon City 鬼ゴロシ」

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

筆者:

ひとしねま

屋代尚則

「何人死んだと思ってるんですか……!!」。今から6年前、日本中に犯人やトリックの〝考察〟ブームを巻き起こした地上波連続サスペンスドラマの最終回。登場人物の刑事が事件の関係者に向けて、そう激怒したシーンを覚えている。作品はフィクションだったが、回を追うごとにマンションの住人たちが一人、また一人と殺されていく場面に、私(筆者)を含む全国の視聴者は、毎週震えあがっていた。

時は流れて今年。約1時間50分ほどの作中で「いったい、何人死んじゃうの……!?」と視聴者があぜんとするはずの新作映画が2月27日から配信スタートとなる。生田斗真が主人公の殺し屋を演じるNetflixのバイオレンスアクション映画「Demon City 鬼ゴロシ」だ。彼のあまりの無双ぶりとスピーディーな展開は、視聴中に〝考察〟をするスキがないほど。あっという間に時がたち、手に汗握るはずの一作だ。


主人公が宣言「いつか必ず、全員殺す」

物語の舞台は、とある地方都市の「新条市」。坂田周平(生田)は裏社会で恐れられる伝説の殺し屋だが、一軒家に帰れば、優しそうな妻と幼い娘が出迎える父親。温かい家庭での平穏な暮らしを守るために、もう今の稼業から足を洗おう――そう考えていた。

そんな矢先、坂田が家に帰ったら、鬼のようなお面をつけた男たちが部屋の中に陣取っていた。彼らは新条市を陰で操る謎の組織「奇面組」の面々。彼らには坂田の存在が邪魔だったらしい。奇面組はその場で妻を絶命させ、子供に向けて銃を放ち……。しかもその惨状は、彼らの策略で「坂田が妻子を殺し、自殺を図った」ように工作され、坂田は瀕死(ひんし)の重傷を負ったのち、刑務所に収監されることになる。

12年後。坂田は出所したが、車いすでの移動を余儀なくされ、言葉もろくに発せない状態に。ところがある日、病院のベッドの上で、突如体が動かせるようになる。そばにいた新条警察署捜査1課の刑事、篠塚(高嶋政伸)は、公職にありながら「奇面組」のメンバーだった模様。病室での格闘の末、坂田は篠塚の首を絞めて窒息死させる。

新条市は、日本初の本格的なカジノを備えたリゾート施設の建設を計画中。その一方で、住民や街の実態を取材する記者が突然亡くなるなど、不可解な事態も起こっていた。背後には、行政の世界にまで巣くう奇面組の存在があるらしい。

「いつか必ず、全員殺す」。奇面組を相手に、家族を失った坂田が立ち上がっての、復讐(ふくしゅう)劇が幕を開ける……。


地上波では無理……の壮絶アクション

以上があらすじだ。見終えての感想はというと、主人公だから当然というべきなのか、とにかく坂田が強い!のである。登場時間が10秒未満の鬼面組の「手下」たちから、物語の終盤に登場する「ラスボス」まで、相手を殴り合い、刃物で斬り、相手を倒していく。

NHK大河ドラマに映画と、数々の作品に出演してきた生田だが、過去の一連の出演作の累計と今作の「鬼ゴロシ」を比べたら、前者で誰かが亡くなった人数の累計は、後者に遠く及ばないはず。それぐらい今作のバイオレンス度は高め、少なくとも、地上波には乗せられない激しさである。そう考えると「こんなハードな生田斗真、見たことがない!」と感じられる、彼の〝新境地〟を楽しめると思う。


主人公も街も 設定が「ぶっ飛び」

さらに言えば、物語の舞台設定が、随所でぶっ飛んでいる。坂田は出所後まもなく、一人で食事もできないくらい体が不自由だったが、少しずつ体に力が戻っていき、やがて清掃工場で、病院で、何十人、何百人の敵を相手に一人で戦うまでに「回復」する。

彼の体がなぜ突然、自由に動くようになったのか。何か(ウソの理論でも)科学的な説明があってもよさそうだが、潔いくらいに、そういった場面がない(強いていえば、家族を殺された憎しみが「エネルギー」に変わっていったのかな……と見ていて推測したが、はっきりとした描写はない)。

何より、新条市という街が「あり得ない」。前述の刑事だけでなく、なんと市のトップである現職の市長(尾上松也)が、実は「奇面組」の一員なのである。先日、日本人の被害者を含む異国の人身売買組織の存在が報じられたが、なんと新条市にも、それを思わせる場所が……。

ああ、あんな行為やこんな行為もしてきたから、街は「急速な発展を遂げた」のか。テレビのニュースでは、この街はおそらく「○○さんが死亡」「行方不明」という報道が日本一多く流れているはずだが(「報道規制」は一応されていないらしい)、新条市の皆さんは、引っ越すつもりはないのでしょうか。


表情で、目で「魅了する」

「あり得ない」と書いておいて何だが、私は今作を難詰したいのではない。上記のような疑問を深く考える前に、主人公がノンストップで無双ぶりを発揮する、という展開が心地よくて、あっという間に時がたってしまった……というのが率直な感想だ。

私はテレビ番組関連の記事を長く手掛けてきた縁で、過去に生田斗真の出演作もよく見てきたし、本人にインタビューする機会にも恵まれた。別の新聞のインタビュー記事を以前に読んでいて、その記者は「この人(生田)の場合、どんな質問に対する答えも通り一遍ではなく、含蓄があったり、おかしみがあったりして、容易に(記事に載せる)取捨を定めることが出来ない」と記していたが、私も会ってみたらその通りで、決まったスペースに記事を収めるのが惜しいくらいの豊かな言葉の持ち主だった。

例えば、私が以前取材した際の記事を引用すると、当時出演したドラマの撮影を通して「脚本家やスタッフの『新しいものを作ろうぜ』という思いを強く感じました。初めてのことをやる時に、批判やネガティブな意見があっても、それを超えた先に歴史が生まれる。そう感じられる現場にいます」。真摯(しんし)さが、ひしひしと伝わってきた。

その生田が今作「鬼ゴロシ」では、主人公の割にはセリフが少ない一方、冒頭から終盤までアクション一辺倒の役に挑む。ただ、豊富なキャリアを持つ彼なら、表情で、いや目の動きだけでも、十分に「魅了する」演技ができるのだと感じた。その成果は皆さんも、本作で確かめてみてほしい。

Netflix 映画「Demon City 鬼ゴロシ」は2025年2月27日より独占配信。

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