「パレード」より 

「パレード」より 

2024.3.07

長澤まさみ主演「パレード」は、人は支え支えられ生きていることを感じさせる良質なドラマ:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

青山波月

青山波月

死後の世界はどうなっているのか。

考えてもらちが明かないこんなことを誰しも必ず一度は考えたことがあるだろう。天国に行くのかな? 地獄かな? それとも幽霊になってんなの周りをウロウロしているのかな? 何にもないのかも? それはきっと人によって違うだろう。この「パレード」という映画をて、死後の世界がこんなふうだったら怖くないかもと思った。
 



震災で離ればなれになった息子を捜す母親が主人公

Netflix映画「パレード」震災によりがれきが打ち上げられた海辺で目を覚ました美奈子が主人公だ。離ればなれになってしまった7歳の息子を捜すが、誰も彼女の声にも姿にも気づかない。そんな中、唯一声をかけてきた青年アキラに連れられて向かった場所で、彼女は自分がすでに亡くなっていることを知る。彼女のように未練をこの世に残して〝その先〟に行けずにいる死者たちと出会い、それぞれの未練と向き合っていく。
 
「人という字は、人と人が支え合ってできている」なんてよく言うけれど、普通に筆記体で書いたら支えているのは片方だけだし、ゴシックフォントで表したらお互い無理な姿勢で支え合って腰が痛そうだ。人間生きている限り迷惑をかけて、かけられて、苦しんで、苦しまされて生きている。「パレード」で〝その先〟に行けずに未練を抱えている死者たちは、自分が死んだことによって大切な人の〝人〟という字から一画抜けてしまったことに罪悪感があるのだろう。
 
おかしなことに死者の人々は死後の世界に行っても、お互いに迷惑かけて、支えて、頼って存在している。月に1度、新月の日に死者は集まり、みんなで助け合って会いたい人をす。その様はまるで〝パレード〟のよう。死後の世界もこんなふうに誰かと共存できるのならば、死ぬことが少し怖くなくなるなと思った。亡くなっていようが、生きていようが、大切な人が存在していることに変わりない。「死ぬ」ということも人間が人間にかける迷惑の一つなのかもしれないが、それだけその人と一緒に生きているという証なのだ。
 
死者の人々は何回か「生きよう」というせりふを放つ。物理的に〝生きている〟〝死んでいる〟は関係なく、死者の人々にも感情があり、望みがある。経過していく日々の中で〝生きがい〟が死後の世界でも確かにあるのだ。生きているこちら側と、亡くなっているあちら側だけど、お互いの存在が〝生きがい〟になるなんて、人は死んでも寄り掛かり合っている。
 

旅立った大切な誰かを思い出し、前向きになれる作品

私事だが、17年間疎遠だった祖父と去年の年末に会い、今年の1月に祖父は亡くなった。お互いに17年会ってなかった罪悪感もあるし、きっと当分私のことを近くで見守ってるんだろうな〜なんてこの映画をて思った。私はたくさん会ってあげれなかったことを謝りたいし、向こうも多分同じこと思っているだろうから、当分〝その先〟には行けないでしょう。
 
折り合いをつけるって難しいと思う。それができなくて何年も死後の世界にたたずんでいた登場人物もいたけれど、ゆっくりお互いがお互いの思い出に助けられながら過ごすことが人間の醍醐味(だいごみ)だと、この映画をて感じた。
 
この作品で大好きなキャラクターがいる。それが、リリー・フランキーさん演じるマイケルさんだ。マイケルさんは生前映画のプロデューサーで、彼が亡くなった後も彼が作った映画はこの世で公開されていた。亡くなった後も愛され続ける映画の偉人たちは、マイケルさんみたいに死後の世界に行って「あれ、僕が作った映画なんだよ」って言っても誰にも信じてもらえず「はいはい」と軽くあしらわれているのかもしれないと思うとなんだかクスッとしてしまう。
 
頭の中だけの思い出だけではなく、映画や小説だったり、された作品を通してたくさんの人の思いつながっていると思うとなんだか不思議な気持ちだ。きっとこの「パレード」という作品も、先に旅立ってしまった人のいろいろな思い出を想起させ、そして前を向かせてくれる作品になる。たとえあなたが生きていても、亡くなっても、私たちは支えられて、そしていつの間にか誰かを支えて生きている。ぜひ大切な人と見ていただきたい。
 
Netflix映画「パレード」は独占配信中

ライター
青山波月

青山波月

あおやま・ なつ 2001年9月4日埼玉県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。
埼玉県立芸術総合高等学校舞台芸術科を卒業後、大学で映画・演劇・舞踊などを通して心理に及ぼす芸術表現について学んだ。
高校3年〜大学1年の間、フジテレビ「ワイドナショー」に10代代表のコメンテーター「ワイドナティーン」として出演。
21年より22年までガールズユニット「Merci Merci」として活動。
好きな映画作品は「溺れるナイフ」(山戸結希監督)「春の雪』(行定勲監督)「トワイライト~初恋~」(キャサリン・ハードウィック監督)
特技は、韓国語、日本舞踊、17年間続けているクラシックバレエ。
趣味はゾンビ映画観賞、韓国ドラマ観賞。