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2024.11.11
女性にも安定収入を! 1992年の田舎町で奮闘する女性たちを描いた韓国ドラマ「貞淑なお仕事」
今年のヒット作といえばNHKの朝ドラ「虎に翼」だろう。女性初の弁護士の一人、三淵嘉子をモデルにした主人公の寅子を通じて、女性が法曹界に入ることはおろか、勉強することすら困難だったという問題に切り込んだ(決して過去の話ではない)。次作「おむすび」が「虎に翼」と比較され、酷評されているのは周知の通り。世間が骨太な作品を求めていることが浮き彫りになった。
「虎に翼」のような女性の社会進出がテーマのドラマは、韓国では定番の一つ。ネットフリックスで配信が始まった「貞淑なお仕事」はフェミニズムを正面から取り上げた典型だ。
男性の「庇護」を抜け出そうとする、家族持ちの4人の女性たち
舞台は1992年の韓国の田舎町。男性中心の社会で抑圧された女性たちが、自立を勝ち取りに行く物語である。
4人の家族持ちの女性たちが主役。夫が失業したり、働かなかったりするために困窮するハン・ジョンスク(キム・ソヨン)とソ・ヨンボク(キム・ソニョン)。ジョンスクを家政婦に雇うオ・グムヒ(キム・ソンリョン)は薬局を経営する夫と裕福な2人暮らし。しかし仕事にかこつけて夕飯時に帰宅しない夫に不満を抱き、1人で大きな家にいるだけの人生に物足りなさを感じている。
イ・ジュリ(イ・セヒ)は美容院を営み息子を育てる「未婚の母」だ。オープンマインドで、シングルマザーという理由で近所から向けられる冷たい視線をものともしない。
事情を抱えた4人が、男性の「庇護(ひご)」から抜け出すべく仕事を始める。アダルトグッズの訪問販売だ。女性が安定した収入を得ることが今よりも難しかった時代。性別と年齢の壁が彼女たちの選択肢を狭めるなか、やっとの思いでありついた仕事が、セクシーな下着とバイブレーターを売ることだった。
保守的な田舎町では軽い下ネタを言い合うことはあっても、性はタブー視されていた。ご多分に漏れず、この町でも女性たちに求められる清廉の重さは男性の比ではない。少しばかり露出の多い格好をするだけで眉をひそめられる閉鎖的なコミュニティーで、彼女たちが手を取り合って知恵を絞り、偏見と格闘しながら販売網をつくっていく。彼女たちがつむぐシスターフッドがなんとも心地いい。
設定では30年以上前の物語だが、今でも既視感だらけのエピソードが多い。ジョンスクの夫は家賃が払えないのに、妻が働くことをよしとしない。ヨンボクの夫には変なプライドはないが、その分家事育児を担っている様子も全くない。家事も育児も家計もヨンボクがワンオペで回している。
一方、王道コンサバのセレブ妻のグムヒ。彼女の夫は働こうとするグムヒに「上品な趣味でもやってなさい」と言い放つ(しかし彼は序盤で早々にキャラ変=改心?する。その姿は見どころの一つ)。
女性たちの物語だが、男性たちの苦悩も描かれている。一家の大黒柱になれないことで貼られる「かい性無し」のレッテル。生き生きと働く妻の姿を目の当たりにし、地元の権力者にこびへつらうボーイズクラブ的なビジネスに甘んじる自分に疑問を抱く夫。彼らもまた、がんじがらめの社会構造に悩まされているのだった。
30年前の描写だが今でも既視感がある
ディテールにこだわって描いているが、今の人が見ても「はて?」とつぶやきたくなる「あるある」が多い。細部の説明はそれほどいらないように感じる。欲を言えば、その分話をもっとテンポ良く進めてほしい。
また、ソウルから来た警察官が絡むサスペンスもなくていいように思う。ふびんなジョンスクにすてきなロマンスを用意したい気持ちは分かるのだが、それよりも立場の異なる女性たちの友情、抑圧からの解放、性の肯定を存分に描いてほしい。
主演は「ペントハウス」シリーズのキム・ソヨン。高慢ちきなソプラノ歌手チョン・ソジン役がどハマりだった。強気で高級なソジンから一転、本作では地元で評判の美人だけどやぼったく、頼りない夫をかいがいしく支える控えめな女性を演じた。
セレブ感を消せていないというのが正直な感想だが、「ペントハウス」で頑としてシスターフッドに加わらなかったソジンから、女性の連帯の軸となるジョンスクと幅広い役を好演した。
Netflixシリーズ「貞淑なお仕事」は独占配信中。