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2023.12.11
現在ブレーク中! ソン・ガンの多面的な魅力が光る主演作「マイ・デーモン」:オンラインの森
「マイ・デーモン」は、近年の名作を凝縮したようなドラマだ。ファンタジー、サスペンス、ロマンス、コメディーの要素が詰め込まれているのに、不思議とくどくない。美しい画(え)と豪華キャストも、華やぐホリデーシーズンにふさわしい。
200年以上を生きているデーモン(悪魔)をソン・ガンが演じる
チョン・グウォン(ソン・ガン)は、命と引き換えにその人の願いをかなえるデーモン(悪魔)。美しい容姿と巧みな話術を持つ魔性で、欲望にかられた人間を惑わし、200年以上もの間、人間と死の契約を結ぶことで生きながらえてきた。表向きはソノル財団理事長職を務める。
ある日、グウォンはお見合い場所を間違えたト・ドヒ(キム・ユジョン)と出会う。ドヒは財閥ミレグループの後継者で、「エルメスを着た悪魔」の異名を持つやり手。しかし、実際は財閥家の人間ではなく、会長に目をかけられているだけの危うい立場にいる。有能で、会長にかわいがられるドヒは、財閥一族から疎まれ常に失脚を狙われている。
初対面で決裂したグウォンとドヒだが、縁は切れなかった。ドヒが何者かに襲われそうになるところをグウォンが救った(正確には、契約を結ぼうとした)際、グウォンはなぜか能力を失ってしまう。そして、彼女の手を握ると能力が戻ることに気付く。
契約を結んだ人間の命を奪わないと、自然発火で消えてしまう宿命を背負うグウォン。切実なのは、四方を敵に囲まれるドヒも同じ。利害が一致した2人は契約結婚をする。
「トッケビ」や「愛の不時着」へのオマージュを思わせる演出も
襲われそうになったドヒを救助するため、グウォンが霧の中をコートの裾を翻して颯爽(さっそう)と歩くシーンは、「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」(2016年)へのオマージュだろう。不滅の命、人間の命を刈る死に神的なキャラクター、ワケあり結婚、高所から街を見下ろす場面など、「トッケビ」と重なる部分が多い。異界の主人公という設定自体は珍しくないものの、随所に「トッケビ」を思わせる演出が見られる。
強気で高慢、だけど孤独なドヒのキャラクターは「愛の不時着」(19年)のヒロイン、ユン・セリ(ソン・イェジン)に似ている。セリもまた、有能でありながら婚外子のため母の愛を受けられず、おバカな兄2人に邪魔ばかりされてきた。
どちらも孤高の財閥後継者でありながら、自分を助けてくれたグウォンとリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)を一目でこっそりと気に入り、ツンデレを繰り返すかわいらしさがある。自立した女性でありながら、危険から徹底して守ってくれる男性がいる点も共通している。
グウォンとドヒが繰り広げる食い違い劇が笑える。ルックスのいいグウォンに初対面から悪い感情を抱かないドヒは、彼の言動に内心ドギマギしまくり。一方のグウォンには全くその気はない。
任務を遂行すること、能力を取り戻すこと、そして任務完了時に大好きなケーキを食べることを考えているだけなのに、図らずしてドヒに対して思わせぶりふうなそぶりをとってしまう。そしてもちろん、ドヒの動揺にも気がつかない。容姿端麗で聡明(そうめい)な2人が、一緒にいると途端に間抜けになるのがおかしい。(でも画は美しい)
カリスマ性、狂気、時々の抜け――、ソン・ガンの相反する持ち味を楽しめる
「ネットフリックスの申し子」と呼ばれるソン・ガンは、文字通りネットフリックス配信のヒット作に多く出演してきた。
「恋するアプリ Love Alarm」(19年)で初主演を果たし、出世作となった「Sweet Home -俺と世界の絶望-」(20年)でスターダムをかけ上がった。その後、「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」(21年)でバレエダンサー役を好演、「わかっていても」(21年)では美しく優しい女たらし(!)の美大生を演じて視聴者をも惑わせたかと思うと、パク・ミニョンと共演した「気象庁の人々:社内恋愛は予測不能?!」(22年)の素直で真っすぐな変わった気象予報士イ・シウ役で、少年の顔をのぞかせた。
グウォンは、「わかっていても」で見せた魔性と、イ・シウの純粋さを持ち合わせたようなキャラクターだ。一見すると相反する性質が同居することで生まれるカリスマ性、狂気、時々間抜けさは、ソン・ガンならではの持ち味だろう。入隊を控えたソン・ガンの魅力があふれる作品となっている。
Netflixシリーズ「マイ・デーモン」独占配信中。