「L.A.コールドケース」© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

「L.A.コールドケース」© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

2022.8.05

この1本:「L.A.コールドケース」 真相に迫る意地と悲哀

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

1997年、米国の人気ラッパー、2パックとノトーリアス・B.I.G.が相次いで射殺された。反目していた2人の争いの結果と推測されたが、犯人は不明のまま。事件から18年後、元刑事プール(ジョニー・デップ)は警察を辞めた後も犯人を追い続けている。事件の回顧記事を担当する落ち目記者のジャック(フォレスト・ウィテカー)がプールを尋ね当てた。ジャックはプールと共に、改めて事件の真相に迫ってゆく。

という話だが、語り口はかなり不親切。冒頭、白人の潜入捜査官が路上で絡んできた非番の黒人警官を射殺する。事件を担当したプールは、背景にラッパー暗殺事件との関わりを探り当てる。やがてプールはラッパー暗殺事件の捜査に携わるが、警察内部の根深い汚職の構造に気づく。

いくつもの事件が数珠つなぎで起きて、多くの登場人物が登場しては去っていく。情報が多くて理解が追いつかず、どれも中途半端なまま局面が展開する。全体図が見えないまま、迷子になった気分。
 しかしこの映画、迷宮入り事件の真相を暴くカタルシスを目指していないのだ。浮かび上がってくるのは、事件に執着して人生を懸けたプールの執念。功名心からプールを訪ねたジャックも、捜査妨害や警察の隠蔽(いんぺい)工作に抵抗し続けたプールの姿に、次第に共感してゆく。

そして、2人がよって立つのが純粋な正義感ばかりではないところがミソだ。仕事も家族も失ったプールと、過去の栄光とプライドだけが残ったジャックが出会い、最後の意地を通そうとする。信念を持った英雄というより、偏屈な頑固者同士。巧妙で強大な権力の網にあらがう蟷螂(とうろう)の斧(おの)は勇ましく、同時に悲しさも漂う。デップとウィテカーが、その機微を繊細に漂わせるのである。ブラッド・ファーマン監督。1時間52分。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)

ここに注目

殺害された大物ラッパー2人とその周辺の固有名詞がいくつも飛び交うストーリーを把握するのは難儀だし、複雑な事件の構図に置き去りにされかねない。ところが有名な巨大汚職事件「ランパートスキャンダル」も絡んでくるロス市警の腐敗ぶり、真相究明に執念を燃やす主人公プールの愚直な人物像が掘り下げられる中盤以降は、ぐいぐい引き込まれる。本格的な警察映画と、痛切な人間ドラマを融合させた力作。よくもこの題材を2時間以内に収め、濃密かつ胸に響く映画に仕上げたファーマン監督の仕事ぶりをたたえたい。(諭)

技あり

モニカ・レンチェフスカ撮影監督は、強い印象のアップが多い構成で撮る。プールと汚職警官のペレズが対峙(たいじ)する警察署の屋上。「法は存在しない」と言い切る横顔のペレズとプールの正面のアップの応酬は、額を切る気合の入った大きさ。ジャックが回顧取材から外され、怒って編集局のベランダのドアを開く。振り向くところで逆光の中の大アップ、次に太陽光でほとんど見えないバストショット、さらに左に顔を置くアップと続ける。これも心象を、光とアップに託した場面だ。芝居巧者のデップとウィテカーを十分に見せた。(渡)

L.A.コールドケース

2015年、元刑事のラッセル・プール(ジョニー・デップ)は、記者のジャクソン(フォレスト・ウィテカー)にかつて捜査した因縁の未解決事件──ノトーリアスB.I.G射殺事件について語り始める。

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