ひとしねま

2022.8.12

チャートの裏側:真骨頂を大胆に客観視

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

座席数が多い館内は、ほぼ満席だった。若い観客が目立つ。公開2日目の東京・新宿バルト9だ。作品は「ONEPIECEFILMRED」。新作ごとの光景とはいえ、圧倒される。若い世代の集客に、このシリーズの強さを思う。新しいファンが増えている感じがした。

2日間の興行収入を聞いて驚く。約22億5000万円だった。シリーズ最高のスタートである。「行動制限なし」だが、新型コロナウイルスの猛威は、ファミリー層主力の作品中心に影響がある。ところが、本作はびくともしていない。若者主体の人気アニメはコロナ禍でも強い。

時代にふさわしいテーマを打ち出した。麦わら・ルフィと幼なじみの歌姫・ウタは、歌の熱狂で人々をとりこにする。海賊=戦への激しい怒りをもつ。ただ、その思いが次第に過剰になる。歌が、あらゆる価値の頂点にあるとの認識だ。これが押しつけられたら、どうなるか。

いかに大切な価値であろうと、人の自由を奪うところまで突き詰めると、本末転倒してくる。映画は歌の魅力と、それを自在に操り、人々を幻惑させることの危うさ双方を描く。本作は、シリーズの真骨頂である海賊=戦の物語を大胆に客観視してみせる。なかなかの踏み込み方だ。賛否両論あるようだが、それもシリーズの勲章となろう。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)