ポゼッサー  ©2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

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2022.3.11

特選掘り出し!:ポゼッサー 乗っ取られた意識の反撃

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

カナダの鬼才デビッド・クローネンバーグを父に持つブランドン・クローネンバーグ監督の長編第2作。主人公は特殊な端末によって他人の意識を乗っ取り、遠隔操作で暗殺の任務を遂行する秘密工作員タシャ(アンドレア・ライズボロー)。しかしある青年の意識に入り込んだ時、思わぬ誤算と反撃に直面してしまう。

いやはや、すさまじい映画である。ナイフや火かき棒を用いた激烈な殺人シーンに絶句。だが単なる残酷趣味ではない。家庭では妻で母親でもある主人公をセクシュアリティー、ジェンダーの視点から掘り下げ、抑圧された精神不安を血みどろの暴力として噴出させた着想に驚かされる。脳科学やバーチャルリアリティーなどをモチーフにした、極めて現代的な示唆に富むSFスリラーでもある。

特殊メークを多用し、不可視の領域である意識の変容を生々しく映像化した試みにも目を見張る。人間の顔がフランシス・ベーコンの絵画のようにゆがむイメージが強烈。取扱注意の刺激物だが、前作「アンチヴァイラル」より深化したブランドン監督、今後も要チェックの才能である。1時間43分。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)