ひとしねま

2023.1.13

チャートの裏側:風物詩なき正月の光景

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

年明けの映画興行は、無風状態と言えるかもしれない。年末からの順位に、大きな変動がなかったからだ。上位作品が公開された後の年末作品に、ずぬけた勢いがない。まあ、そういうこともある。結果、どういうことが起こっているかというと、正月興行全体の停滞である。

それにしても、正月興行の華やかな雰囲気が、映画館から感じられなくなって久しい。観客のにぎわいの話ではない。多くの階層、世代の人たちが正月だから、映画館に赴くという風物詩的な色合いのことだ。年齢層が限られる邦画アニメが目立つから、今年はその感が強い。

それは、今や映画館の主流であるシネコンが、全国に普及するようになったことと関係があろう。もう、長い歳月がたつ。シネコンは、全国の映画館の均質化を促した。形態だけのことではない。それまで個別的にあった映画館の客層が、一堂に集められた。観客の均質化だ。

今思えば、風物詩としての正月興行とは、映画館の記憶とともにあった。正月映画らしい作品を、あの映画館に誰それと見に行った。均質化は、その認識を希薄にしたと思う。休みの延長で映画館に足を運ぶ人はいるが、正月だから行くという習慣も減った気がする。映画だけの話ではないだろう。風物詩の様子が、随分とのっぺりしてきた。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)