毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.8.12
チャートの裏側:希望の大切さを若者に
山田洋次監督の「キネマの神様」を見ると、映画の底知れなさに改めて思いが至る。この分かりやすさは何だろう。人間に対する温かなまなざしの途方もなさは何だろう。山田監督が松竹映画100周年記念作品として、コロナ禍のこの時期に送り出した。この意味は計り知れない。
話は現在から過去へ、映画に夢をかけた人物たちを中心に進む。作品の中軸を担うのが、意外や家族を冷静に見つめる若き〝映画青年〟だ。主軸の話を超えて、彼から映画全体を眺めると、本作の見どころが一段と鮮明になる。それは、人が持つべき希望の大切さである。
そこには、作中の有名監督たち少数の才能者の人生模様とは、まるで違う人の生き方がある。その部分に光を当て、希望を見いだす。ありきたりな視点と言う人もいよう。違うのだ。そのように思える描写に、映画の力で血を通わす。それが、どれほど困難なことであるか。
映画館には若い観客が少なかった。近年の山田作品の作風を考えても、やはりそうなるかもしれない。本作は、これから人生の大半を生きる若者たちへの応援歌になっている。では、そのことがもっと強く伝われば、若者層は見に来てくれるのか。この問いの答えは簡単ではない。私は、感動を覚えながらも、複雑な心境も抱え込んだ。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)