「イニシェリン島の精霊」 ©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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2023.1.27

この1本:「イニシェリン島の精霊」 孤島でうねる男の絶交

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督の新作。今作でも、登場人物の予期せぬ一撃が人間関係の均衡を破り衝突をもたらし、取り返しのつかない事態へといたる。意外な物語から浮かび上がる人間の恐ろしさ、愚かさ、そしてユーモアを一つまみ。スリラーでコメディーで、そして人間ドラマ。マクドナー監督の語り口の妙を堪能すべし。

1923年、アイルランド・イニシェリン島。コルム(ブレンダン・グリーソン)はパブ仲間のパードリック(コリン・ファレル)に、突然絶交を宣告する。コルムを親友だと信じ仲直りを試みるパードリックをかたくなに拒み、「話しかけたら自分の指を切り落とす」と告げ、やがて本当に親指を切断した。

マクドナー監督の映画で悲劇をもたらすのは、悪意や敵意ではなくて頑迷さだ。コルムが「残りの人生を意義あることに使いたい」と言うのは分からなくはないが、あまりに極端。周囲の取りなしに耳を貸さず、パードリックの懇願も無視して、果ては自分を傷つける。

いくら何でも、やり過ぎ。驚いているうちに、物語はさらに痛ましい方へと進んで混乱に拍車がかかる。パードリックも正常ではいられない。筋立ては先読みできないし、安易な感情移入も許されない。観客は戸惑いながら、成り行きを見守るしかない。

草木の少ない荒涼とした孤島の風景に加え、死の予言を告げる魔女のごとき老人も登場し、今作は不吉なおとぎ話のような気配もたたえている。グリーソンとファレルはマクドナー映画の常連で、共演は「ヒットマンズ・レクイエム」以来。奇妙な物語の常軌を逸した人物に、真実味を与えた。ゴールデングローブ賞では作品賞など3冠を獲得。アカデミー賞もにぎわせそうだ。1時間49分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

ここに注目

マクドナー監督の脚本、演出は滑り出しから絶好調だ。パードリックがコルムから絶交宣言を突きつけられたウワサが、たちまち閉塞(へいそく)した村社会の島全体に広まる描写の巧みさ、滑稽(こっけい)さ。さらに主人公たちの対立が深刻化し、人間模様が激しくうねっていく展開にぐいぐい引き込まれる。お気楽なパードリック、芸術家肌のコルムというキャラクターの対比、彼らが飼っているペットのロバや犬の描き方も絶妙。当初は男同士の単純な仲たがいに思えたストーリーが暗喩や寓話(ぐうわ)性をはらんでいき、見る者に哲学的な問いも投げかける。お見事。(諭)

ここに注目

監督の名作「ヒットマンズ・レクイエム」でも共演したアイルランド出身の俳優コンビが、うれしい再タッグ。戸惑いとざわめく心情を伝えるファレルの八の字眉、たやすくは内面に踏み込ませないグリーソンのいかめしい顔つき。ふたりの個性が存分に生かされている。はじめこそまるで痴話げんかのように思わせて、理不尽にこんがらがっていく男同士のいさかいは、本島で繰り広げられている内戦そのもの。島の風景を物寂しくも魅惑的な絵画のように切り取り、舞台となる街をもうひとりの主人公に据える監督の個性も光っている。(細)

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