「SAKAMOTO DAYS」より

「SAKAMOTO DAYS」よりTMS/Shueisha

2025.1.14

<考察>ジョン・ウィック? ベビわる? 「SAKAMOTO DAYS」の神髄はクール×笑いのギャップアクションにあり!

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筆者:

SYO

SYO

「ハイキュー!!」「僕のヒーローアカデミア」「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「チェンソーマン」ほか、原作漫画・テレビアニメともに好調な週刊少年ジャンプの人気作、その一角が新たに映像化された。鈴木祐斗による「SAKAMOTO DAYS」だ。

2020年に連載を開始し、現在は既刊20巻に到達。24年12月時点でコミックスの累計発行部数は700万部を突破しており、25年1月よりテレビアニメが放送スタート。すぐさまNetflixをはじめとする各配信サービスでのランキング上位に入り、話題をさらっている。


引退した殺し屋が主人公のアクション作品

「SAKAMOTO DAYS」は、引退した殺し屋を主人公にしたアクション作品だ。かつて伝説の殺し屋として名をはせていた坂本太郎は、一般人と恋に落ちて引退。いまはカタギとして個人商店を営んでいるが、ある日突然10億円もの懸賞金をかけられてしまい、平穏な日常を守るために戦う羽目になる。

主人公が元・暗殺者で現在は「不殺」をルールにしている点は「るろうに剣心」にも重なり、街の便利屋も請け負っていたり中華娘が登場する点などは「銀魂」を想起させ、序盤のかませ犬的な敵キャラに「NARUTO」っぽさがあったりと、読者が親しんできたであろう少年ジャンプの人気作との共通項を盛り込んでいる。

アニメ版のスタッフも、シリーズ構成を「ハイキュー!!」の岸本卓が担当し、音楽を「僕のヒーローアカデミア」の林ゆうきが務めるなどジャンプ作品経験者が参加している。そういった意味で、ジャンプ作品好きには親しみやすい特徴を備えている。


イレギュラーな設定を掛け合わせた面白さ

ただ当然ながら、「SAKAMOTO DAYS」は過去作のリミックス的な要素だけではない。むしろそれらはあくまで下地で、ストロングポイントは本作ならではのオリジナリティーにある。基本設定も、従来の少年ジャンプ作品ではなかなかにイレギュラーなのだ。

まず、主人公の坂本が既婚者であり、一人娘がいる父親である点。少年ジャンプ作品はメインターゲットに合わせた中高生を主人公に据える場合が多く、「ドラゴンボール」のように物語の過程で結婚し、父親になる主人公はいても、スタートからそうなのはなかなかに異例だ。

そして、「最強の殺し屋が結婚して子どもが生まれ、幸せ太りした」×「極めて寡黙で、ほとんどしゃべらない」面白さ。見た目はメガネをかけてひげづらのぽっちゃり男性が、昔取った杵柄(きねづか)で動きはキレッキレというギャップが鮮烈だ。物語が進むと、激しい戦闘で痩せると昔のシャープな姿に戻るという変化球の戦闘シーンが加わり、笑いとカッコよさの両輪で魅了すせる。

この点に付随するのは、圧倒的なアクション演出の巧みさ。少年ジャンプ漫画といえばバトルシーンは外せない必須要素ともいえるが、「SAKAMOTO DAYS」は舞台設定やおのおのの武器、戦闘シーンの組み立てが他に類を見ないものになっている。


自由度の高いバトルシーンで飽きさせない

テレビアニメ第1話では坂本商店内で坂本とかつての相棒にして後輩・シンのバトルが展開するが、坂本はなめていたあめ玉を口から発射して銃弾の軌道を変え、棒アイスやシュークリームを投げて応戦。中華街でのバトルが展開する第2話では、お玉や中華鍋といった調理器具を駆使して戦う。坂本の戦闘スタイルが「その場にあるものを何でも武器にしてしまう」もののため、なんとも自由度の高いバトルシーンが毎回楽しめるのだ。

ちなみに原作最新刊の第20巻では、ビーチボールや水中眼鏡、トルコアイス用の棒までを武器に。切れ味鋭いアクションにもかかわらずどこか笑えてしまう戦闘は、今日まで一貫している。なお、シンは相手の思考が読めるエスパー、中華娘のルーは太極拳の使い手で、酒に酔うと強くなる酔拳へのオマージュも備えており、各キャラクターの戦闘スタイルも実に多彩だ。

電動丸ノコやサンドブラストといったレアな武器を使ったバトルだけでなく、度重なる戦闘で刃こぼれした刀を敵が撃った銃弾を利用して研いだり、弓の弦の部分で敵をかっ切ったりと、メジャーな武器も使い方が独特で、飽きさせない。


随所に感じる映画愛に注目、息の長いシリーズへの期待も

また、随所に感じられる映画愛にも言及したい。その場にあるものを武器に変える主人公といえば、「ボーン」シリーズのジェイソン・ボーンや、「ジョン・ウィック」シリーズのジョン・ウィックなどが挙げられ、アクション映画好きにはニヤリとさせられるのではないか。

特に「図書館で敵と戦う際、本を巧みに使って倒す」などシチュエーションに応じたアイデア満載の「ジョン・ウィック」シリーズは、「SAKAMOTO DAYS」と精神性が非常に近い。敵キャラにも「レオン」や「座頭市」をモチーフにしたであろう人物がいたり、「オールド・ボーイ」や「ドント・ブリーズ」などでおなじみのネイルハンマーを武器にするキャラクターが登場したり、「レザボア・ドッグス」ほかタランティーノ作品のテイストが感じられるシーンも存在。

物語が進むと映画監督兼殺し屋が登場したり、表向きはレンタルビデオ店だが実際は殺し屋の情報を映画仕立てで紹介するショップがあったり、宣伝においても「ベイビーわるきゅーれ」で知られる俳優・スタントパフォーマーの伊澤彩織が原作のPVに出演したりと、アクション映画好きの間でも認知が広がっている印象だ。「SAKAMOTO DAYS」は物語が進むごとにシリアスさやシャープさが増していく構造のため、息の長いアニメシリーズとなることを期待したい。

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