©2022「大河への道」フィルムパートナーズ

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2022.5.20

特選掘り出し!:大河への道 伊能図めぐる熱き喜劇

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

立川志の輔の落語「大河への道―伊能忠敬物語-」を映画化。コメディー調の現代劇と江戸が舞台のシリアスなドラマを併存させ、新たな時代劇の創作に挑んだ。

千葉県香取市役所の池本(中井貴一)は、観光振興策として日本で最初に精密な全国地図を作った伊能忠敬を主人公にした大河ドラマを提案する。大物脚本家の加藤(橋爪功)を口説くが、忠敬は地図完成の3年前に亡くなっていたことが判明。場面は江戸へと移り、忠敬の弟子たちは地図を完成させようと命がけの作戦に出る。

7割を占める中盤の時代劇で、偉人の裏に隠れた仲間や弟子たちの熱意と知恵、地図との葛藤を際立たせる。忠敬は登場しない。手練手管でお上を欺き、昼夜休まず地図作りに没頭する裏方たちの覚悟に焦点を当てる。殿に地図を献上する場面は撮影や照明、美術などの力も相まって圧巻である。

「鳥肌」や「志」「名もなき連中」といったキーになる言葉やわらじで情感を揺さぶり、ほくろや針などの小道具も生きている。ちょっといい話を見聞きした心地よさも相まって、熱血ドラマを見た後のようなさわやかさも。中西健二監督。1時間52分。東京・新宿ピカデリー、大阪・あべのアポロシネマほか。(鈴)