「夜を越える旅」

「夜を越える旅」

2022.8.04

プチョンから世界へ:映画のミカタ

毎日新聞のベテラン映画記者が、映画にまつわるあれこれを考えます。

勝田友巳

勝田友巳

韓国・プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)には企画マーケットのNAFFが併設されていて、ジャンル映画の作り手発掘、育成に取り組んでいる。映画祭というとアート映画、社会派志向の真面目な作品という印象で、各地の企画マーケットもそうした作品への支援に偏りがちだ。しかし、プチョンが目配りするのはホラーやスリラー、SFなど、必ずしも万人受けはしないものの、熱心なファンがいる分野。若い才能を後押しして、〝アジアのジャンル映画ならプチョン〟の地位を固めようというのだ。

日本の映画界では、強力な原作があるとか人気俳優の出演が決まっているとか、〝釣り〟がないと製作費を集めるのが難しい。しかしNAFFは国際合作を目指すから、そうした要素はあまり意味がない。無名の新人監督のオリジナル企画でも、内容次第。日本の若手も、参戦していた。
 「LEFT HAND OF THE DEVIL」は、亀山睦実監督が英国の会社と開発中の企画だ。亀山監督は自主製作映画やドキュメンタリーなどを手がけているが、さらなる飛躍を求めて海外の製作会社に片っ端から自分を売り込むメールを送ったという。

すると英国のプロデューサーから「日本人監督を探している」と返信があった。日本を舞台にしたスペインのグラフィックノベルの映画化で、ヤクザに家族を殺され、右腕を奪われた黒人のヒロインが、左手1本で棒術を操って復讐(ふくしゅう)を果たすというアクション映画。日本国内で作ったら低予算のキワモノで終わりそうだが、製作費をかけた映像とアクションなら、面白くなりそうな気配もする。単身プチョンに乗り込んだ亀山監督は、各国の製作者と面談を重ねていた。

映画祭の、過激な作品を集めた「アドレナリン・ライド」部門で上映された「夜を越える旅」は、萱野孝幸監督の長編作品。20年のNAFFに企画として参加、ここでの資金調達は果たせなかったものの、映画を完成させプチョンに「凱旋(がいせん)」した。

相川満寿美プロデューサーはプチョンでの手応えを「国内で資金調達が難しくても、東南アジアの国などと組むことで実現する道もありそう」と話す。「日本だと製作会社に『有名になってから』と断られるが、『自分たちが有名にする』という意欲も感じられた」と振り返る。各国が持ち込む企画は億円単位の製作費で、日本とは文字通り桁が違う。

クエンティン・タランティーノもギレルモ・デル・トロも、かつてはジャンル映画マニア。自身の企画を実現させて躍り出た。安全志向の日本に、才能にかける心意気も余裕も期待できない。グローバル化が進んで地球も小さくなってきた。いざ、世界へ。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

この記事の写真を見る

  • 「夜を越える旅」
さらに写真を見る(合計1枚)