「恋するムービー」より

「恋するムービー」より© 2025 Netflix, Inc.

2025.2.19

チェ・ウシク、パク・ボヨン主演、夢を追いかける若者たちの恋愛や現実を描いた人間ドラマ「恋するムービー」

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筆者:

梅山富美子

梅山富美子

韓国発のNetflixオリジナルドラマ「恋するムービー」(全10話)が、14日より配信されている。タイトルの「恋する」というワードからは甘いラブストーリーが待ち受けているのかと思いきや、想像を超える愛の物語が待っていた。


映画を通じて出会った2人と、彼らを取り巻く人々の物語

本作は、映画をこよなく愛する男コ・ギョム、映画監督の卵であるキム・ムビの2人と、彼らを取り巻く人々の物語。「その年、私たちは」「殺人者のパラドックス」のチェ・ウシクがギョム役、「力の強い女 ト・ボンスン」「今日もあなたに太陽を ~精神科ナースのダイアリー~」のパク・ボヨンがムビ役を担い、脚本を「その年、私たちは」のイ・ナウン、監督を「無人島のディーバ」のオ・チュンファンが務めた。

物語は、ギョムとムビの出会いとなる26歳のころ、そして5年後を中心に進んでいく。幼いころから映画ばかり見てきたギョムは、「映画界に自分が必要だ」と根拠なき自信を胸に俳優を目指す。オーディションの帰りに助監督のムビと出会い、彼女に特別なものを感じて猛アピール。最初はうっとうしがられるも、彼女と心を通わせていく。しかし、気持ちを確かめ合ったはずが、ギョムは突然、何も言わずに姿を消す。

月日は流れ、ムビは映画監督となり、映画評論家に転身したギョムと再会。戸惑いを隠せず、「監督と評論家は敵同士」と距離を置こうとするが、偶然なのか運命なのかギョムと何度も顔を合わせるようになり、再び心が動いていく。

明るく人に好かれるギョムは、演技はからきしでも監督の懐に入り、出演シーンがなくても撮影に呼ばれるほど。ムビにとっては、いつも笑顔で能天気な映画好き。だが、その心の奥深くにある感情は誰にも見せることがない。彼女の前から姿を消した原因となったできごとが起こったときも、助けを求めることができなかった。

ムビもまた、父親の存在が大きな影を落とす。映画監督になる夢半ばで亡くなった父親が、ムビよりも映画のことを優先してきたことを許せずにいた。父親のことが影響して、そばにいてほしい人に素直になれず、映画にもまっすぐ向き合いきれない。本音は違うのに、時にはギョムに強い言葉をぶつけてしまうことも。

自分の傷に気づかないふりをして、逃げてきた心に向き合う2人。人の感情は、見えているものがすべてではなく、その場限りのものでもない。過去の経験や積み重ねてきた思いが絡み合い、時には自分でも気づかぬ形に変えてしまうことも。本作は、そんな繊細な心の動きを、10話をかけてじっくりと描き出していく。

だからこそ、お互いの存在に癒やされ、少しずつ心を見せあう2人の姿に、じんわりと温かい気持ちになっていく。2人の愛の物語はもちろんのこと、本作にはもう一つとてつもない深い愛が存在する。それは、ギョムと兄ジュン(キム・ジェウク)の兄弟愛だ。


映画のセリフから取られたエピソードタイトルにも注目

両親を亡くし、幼いギョムを養っていくことになったジュン。だが、〝ギョムにとっていい兄〟ということ以外、物語の中盤までどのような人間なのか描かれない。第1話では、黒いキャップに黒い上着という姿で、表情も読みづらく、まるで不審者のような印象さえ与える。

あえて違和感を与え続け、第7話でようやくギョムは、兄の歩んできた人生、背負ってきたものを知る。ジュンがどんな気持ちで弟と生きてきたのかを知り、ギョムはその深い愛に圧倒される。そして、その計り知れない思いに触れ、涙が止まらなくなる回だった。

ひょうひょうとしているように見えるが、ひとたび真剣になるギョムを演じたチェ・ウシクは感情が切り替わる瞬間をとらえた演技が突出しているし、第7話でドラマの奥行きを一気に変えたキム・ジェウクも素晴らしく、2人が対峙(たいじ)するシーンは圧巻だった。

また、ギョムとムビの恋と並行して、ギョムの親友で夢半ばの作曲家のホン・シジュン(イ・ジュニョン)と、脚本家を目指すソン・ジュア(チョン・ソニ)のカップルの行方も描かれる。学生時代から7年交際するも、突然別れを切り出したジュア。ギョムとムビと同じく5年後に再会する2人だが、いまだに無名の作曲家のシジュンは、ジュアが脚本家デビューを果たしたということにダメージを受ける。

夢を追い続けることが正解なのか、諦めるものなのか。シジュンとジュアという夢を追う若者が直面するのは、決して甘くない現実だ。ただ、彼らを悲壮感や絶望感で満たすことなく、過剰なドラマに仕立てずとも魅力的な人間ドラマに仕上げるイ・ナウンらしさが光る脚本だった。

ちなみに、イ・ナウンは、ギョムのように映画を愛する人物のようで、エピソードのタイトルが映画のセリフから取られたものばかり。チェ・ウシクとタッグを組んだ「その年、私たちは」でも、各話のタイトルが映画のタイトルにちなんだものだった(日本語訳では若干の変更あり)。

Netflix シリーズ「恋するムービー」は独占配信中。

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